里山にある古材を活用した木の家。のどかで優しい、日本の風景だ。
「雑木林の中で、小鳥のさえずりを聴きながら暮らしたい。そして削られたこの土地の里山を、ここに再生したい」
それが、この家に住まうご家族の願い。
小さな森の集合体が家を包み込む。ここは、庭でもあり、山でもある。
植えられた樹々は成長し、葉を落とし、土を肥やす。そして下草が育ち、庭は徐々に山に還ってゆく。
木の家に山の樹を植える。林を作り、林を集めた森を作り、庭の境を超えて里山へと繋いでゆく
沢を掘って地水を呼び込み、掘った土を盛り上げて山にする。
粘土質の土でも捨てずに改良し、土地で育つものを植える。
山にあるように。
無剪定で育てた自然木を山の植生のように植えれば、樹は樹なりに育っていく。
寒さや雪で鍛えられた樹木には雪囲いも要らず、障るものが無い所では剪定も不要。
樹木には極力手を入れず、自然遷移に任せていく庭。
敷地は、里山の裾野に広がる平地。山を切り崩した後の造成地だ。 工事は固められた土をほぐし、作り、水を受け流すことから始まった。
里山にある家に、里山にある樹木を植える。 その土地に生える身近な樹種を、山にあるように植える。
萩とオミナエシが咲く初秋の庭
秋の山に踏み入ったかのような庭先の景色
雑木林に囲まれ、里山暮らしを楽しむご家族。庭にはさまざまなキノコの原木が置かれている。
敷地の中には広大な畑と果樹園もあり、農園として開放している
柿の実をついばむツグミ。樹で熟した実は甘く、この柿の木は晩秋から初冬にかけての鳥たちにとって最高のレストランになる
冬、明け方厳しく冷え込んだ日は良く晴れる。日の出とともに消えていく氷華を見るために早朝の庭を歩く
細い枝から出た無数の繊細な氷の柱が朝日に輝く。厳冬の日の美しい自然の造形
自然勾配の地形は地表や土中の水はけがよく、雨水や地下水が自然に流れていく所は樹木もよく育つ。
そんな自然の沢の流れや植生の様子を参考に、里山に溶け込む風景をつくることを目指した。
石組は無いけれど、土の起伏が変化をつくる。
土留めの石積みは無いけれど、土が崩れて止まった角度にすれば、山は崩れない。
角度が強ければ、剪定枝を束ねて土を留め、枝の中から水を浸み出させる。
目隠しの塀は無いけれど、周囲に盛った土の山と、自然に生えるススキが塀になる。
庭という括りを外し、自然界が行う造成を取り入れ、この土地に山をつくり、育てる。
再生途中の土に葉が落ち、草が生え、それらは枯れて土に還り、再び芽吹く。そうして、徐々に雑木林の風情が増してゆく
ご家族の夢は大きく、まだまだ膨らむ。 木々の成長と共に、少しづつ、この場所が里山そのものになっていくことを願っている。