土地の気候風土や文化が違えば、庭の作り方や手入れの方法も変わってきます。同じ土地でも、その植木屋さんによってやり方も様々。
ここでは、雪国秋田ならでは、福岡造園ならではの季節の庭仕事を四季の風情とともにご紹介します。
普段仕事をしていてよく聞かれるのが、「植木屋さんって、冬場何をしているの?」。
子供たちが雪だるまを作って遊ぶ中、雪国の植木屋もまた「だるまさん」、雪があると手も足も出ないのではと思われているようです。
しかし、実は何も出来ないようでいて一番活動しているのが冬。まずは、そんな冬の仕事からご紹介。
冬の庭仕事といえば雪囲い。例年、雪のちらつく11月中旬辺りから始めて、積雪が本格化する12月半ばごろまでには終わらせるようにしています。
雪囲いは、雪が乗って枝が折れたりしないように、雪に埋もれる低木などをムシロやヨシズ、防風ネットなどで囲う作業ですが、内陸部などの豪雪地帯では、板で頑丈に囲う所もあるようです。
また、風囲いと言って、寒潮風の強い能代や八森などでは、風に弱い中高木などもヨシズなどで覆います。囲いは雪の降らないうちに済ませておきたいところですが、あまり早くムシロなどで囲うと木に耐寒力が付かないため、少し寒さに当ててから囲うようにしています。
お盆前の剪定同様、作業の時期が集中するため、この時期の植木屋は大忙しです。
竹で骨組みした上からヨシズを巻くツゲの木の風囲い(サツキの寄せ植えも一緒に囲う)
左、真ん中:囲ったことを見せないように内部を縄で絞り、夏と変わらぬ姿で養生したネズミサシとツバキ。
右:夏に透かしたチャボヒバに、除雪で傷む下枝だけをムシロ囲いした例。
冬の庭の風物詩といえば雪吊り。雪吊りの飾りを見れば、どこの植木屋さんかわかるほどバリエーションに富んでいます。
雪吊りは雪の重みで枝が折れないようにするための冬の養生ですが、夏場に枝抜きをしておくことにより、雪の重みを軽くすることもできます。福岡造園では、雪吊りを大雪の時の補助的なものとして行い、雪吊りと雪透かしを併用しています。
左:雪透かしをした黒松の雪吊り。右:裾を吊って下枝の枝折れを防ぐオンコの雪吊り。
オンコと赤松、2本の木を1本で吊る。
吊り縄を張る時、枝が引っかかるような枝は春先に折れていることが多い。降雪期に雪吊りをする場合、そのような枝を予測して外すと、枝を抜くと同時に乗った雪がドッと落ちてくる。こうしたことからも、透かしの効果がわかる。
雪囲いが終わると門松づくりが始まります。あまり大きなものはつくりませんが、ご注文いただいた方や、お施主さんへの暮れのご挨拶用に少しだけつくっています。これをつくると、あ〜、今年もお正月が来るなあと実感します。
篭型や太鼓型など、お正月を飾る花器としても使えます。
ニシキギの雪透かし。左:剪定前、右:剪定後。
冬に葉を落とす落葉樹でも、枝数が多く混み合っている木などには雪が乗りやすいもの。枝の付け根にたまった雪は落ちにくく、凍ると重みで折れてしまう。
そのような枝をこの時期に外し、雪が乗りにくい樹形にしてあげています。こうすることで、雪の養生無しでも、木が雪に耐えられる姿になります。
山の中の木は自分で雪を落としますが、それは、木がその場所で雪に対応できるような姿(自然樹形)になっているから。その木本来の形に直してあげることで、雪に強い木になっていきます。
左:枝数の多いニシキギは付け根に雪が溜まる。右:自然樹形のニシキギには雪が乗りにくい。
雪囲いは木を雪や寒風から守る養生ですが、逆に言うと、耐寒力の無い暖地の木を雪害を受ける場所に植えるから守らなければならなくなるということ。
雪国で育った木は雪の受け流し方を経験で知っています。土地に自生する雪に強い木を、落雪や除雪の支障とならない所に植えてあげれば、雪囲いは不要。
山にある木は誰も雪囲いをしてくれません。山にある木を山にあるように植えてあげること。
木が望む場所に木本来の姿で植えてあげると、管理費の掛からない庭になります。福岡造園が目指しているのも、そのような庭づくりです。
上左:土地の自生樹を植えた雪囲いの不要な庭。上右:里山の斜面に生える根曲がりの木を植えた庭。
冬に葉を落とす落葉樹は、この時期が剪定の最適期。太い枝の間引きなどはこの時期に行います。
落葉樹は夏場の光合成で養分を作り翌年の芽出しに使いますが、冬場はその養分を一番貯め込んでいる時期。木が活動を休止しているこの時期の剪定は腐朽菌も入りにくく、木に掛かる負担も少なくなります。
街路樹や果樹の剪定を冬に行うのはこのためです。11月の落葉後から、木が活動を始める3月末頃までに終わらせるようにします。
サクラの剪定。腐りが入りにくく切り口を早期再生させる剪定法で行う
・・・参考・・・
夏場、石山から探してきた原石や、壊れた灯ろうなどをストック、この時期に水鉢として加工します。
一般の庭に作られる飾りの蹲踞と違い、茶事を行う露地蹲踞の水鉢は柄杓を使う時の水量を考えなければなりません。姿、気品ともになかなか良品と出会えることは少ないことから、自分の手でつくっています。
川石の水鉢
山石の水鉢
水穴の深い「みかん彫り」
見立て物(灯篭の笠に水穴を掘った水鉢)で組んだ蹲踞
積雪の多いこの時期は、これからつくる庭を考えるのに一番いい時期です。この期間に庭を下見に回り、設計作業を行います。
秋田で庭を作る場合、雪は避けて通れないもの。積雪はどのぐらいか、屋根からの雪はどこに落ち、どれほどの高さになるのか、お隣の屋根から雪は落ちないか、冬の風はどちらから吹くか、川風か潮風か、風で雪だまりはできないか、道路の除雪は庭に影響を与えるか、アプローチの雪はどこに寄せるか、庭を雪寄せ場として使うか、など、そのようなことを点検しながら、庭が雪の害を受けないように、ご家族が冬の生活をしやすいような庭を考えます。
「雪が落ちても雪が囲いをするから大丈夫」と思っていても、年々大きくなる木に頑丈な雪囲いを続けていくのは大変です。人にも木にも無理が掛からない庭を考えるのがこの時期です。
冬場の現地調査(能代市2月) → 雪の落ちない所を選んで木を植えた。
大屋根から落ちる雪が玄関前にたまる庭の改造(能代市3月)→直線だったアプローチを大きく迂回させ、除雪を受けていた道路側の植栽を石積を設けて高くした。
落雪のストックスペースを確保してつくった庭
冬場は、植木屋も除排雪作業に回ります。庭や通路にたまった雪を寄せたり雪捨て場まで車で運んだり、屋根の雪降ろしなどにも出かけています。
敷地内での雪下ろしは庭の空きスペースに落としますが、屋根下に木がある時や庭に木がたくさん植えられている時などは、落とし所にとても気を遣います。また、アプローチから寄せた雪は庭にためておくことが多く、この作業を行うことは、雪降ろしの支障にならないような植栽配置や雪のストックスペースの確保を考える上で、とても勉強になります。
冬場、このような作業を行いながら、雪に強い庭をつくるにはどうしたらいいかを考えています。今年はどうか、大雪になりませんように。
倉庫の中につくった弊社試作室
真冬は庭仕事ができない雪国の植木屋。雪を恨んでも解けてくれるわけでもなく、せっかく時間があるのなら研究に使おうではないか、ということで、倉庫で庭づくりの試作を行っています。
素材の新たな使い道を探ったり、暖めていたデザインを試したり、練り上げたい技術の練習をしたりと、仕事のできない冬場は、植木屋の腕を上げるチャンスです。
露地の延段や蹲踞づくりの練習
土塀の試作
石積のベンチ
創作の庭の試作
庭仕事ができないこの時期には作庭写真展などを開催、自作の庭を見ていただきながら、庭に親しんでいただく場を設けています。そこでいただいた声がヒントになって庭の試作を行ったり、実際の庭づくりに活かされたりすることもあります。
会場でいただく感想の中には目から鱗の話などもあり、作り手側の意識改革にもなるなど、とてもありがたい機会になっています。
作庭展ポスター
2010年2月 北羽新報記事
展示に合わせたインスタレーション
写真展のアンケートをヒントに試作した庭
いろんなことをしているうちに、山ではマンサクが咲いてきました。いよいよ、春です。
花をのみ待つらん人に山里の 雪間の草の春を見せばや(藤原定家)
露地のあり様を示すものとして千利休が好んだというこの歌。毎春、雪の中から顔を出すフキノトウを見る度にこの歌を思い出し、春の訪れを感じています。
フキノトウの花言葉は「待望」。待望の春を迎え、ようやく植木屋も土の上に立つことができます。木々が動き出せば植木屋も動く。
陽光の下、植木屋が力を発揮できる季節がやってきました。
3月、私の暮らす二ツ井町にはまだまだ雪がありますが、能代や秋田市方面など、雪解けの早い所から作庭に取り掛かります。
雪解けしても、3月中はまだ時折雪が舞うので木を植えるにはまだ早い。今年使う石の支度や搬入、庭の造成、石仕事、竹垣作りなど、雪解けの時期は木を植えられるまでの段取りをしています。
庭に土を入れて地盤の造成
採石場に行って材料探し
石材搬入
石積み中
竹垣の下ごしらえ
竹垣作り
降雪がおさまったら、庭の雪囲いを外して回ります。
雪吊りや縄巻きだけの庭は3月中旬過ぎあたりから外しますが、ムシロ囲いしてある庭の木は4月初旬辺りに外します。3月中は囲いを外したとたんに雪が降ったり強い寒潮風が吹くこともあり、急に寒さに当たった木は葉焼けを起こすことがあります。そうしたことを避けるためにも、囲いは春一番が終わった後に外しに出かけています。
またこの時、囲いを外すと同時に木に肥料を与えます。雪の降らない地方では冬期に寒肥えをやりますが、雪のある時に肥料はできず、秋にやっても春まで効かないことから、囲いを外す時に行います。囲いの骨組みの穴に肥料を入れると一石二鳥。穴を掘る手間も省けます。花の咲く木などはこの時行わず、花が終わった後にやっています。
落葉樹の移植や植付は、剪定同様に、葉の無い休眠期に行うと木に負担が掛かりません。雪の降らない地方では秋から春までの間に行いますが、雪国で秋の落葉後に移植すると寒風害を受けることもあり、雪解け後から芽吹き前の間に行います。
移植は、木にとっては根を切られる手術と同じ。手術後の弱った体で冬の寒さにさらされるより、これから根を張っていける時期に植えてあげたい。庭の植木同様に、植木畑の木の根回しや今年使う木の掘り取りなどもこの時期に行っています。
芽出し前に掘り取った木を庭に植える
雪の多い年など、庭の木の枝が折れたり竹垣が傷んでいることがあります。春先の強風で木や垣根が傾くこともあり、雪囲いを外した後はこのような修復に回ります。
また、竹細工などもこの時青竹に取り替えて、春の装いに一新します。
強風で傾いた生垣
支柱を付けて起こし、剪定で木の負担を軽くする
春先の強風で倒れた竹垣
竹垣を起こし、長持ちするヒバ丸太で補強する
→ツタ垣
蹲踞の筧や竹蓋の取り替え
しばらく手を入れていない松を大きく枝抜きする場合や太い枝を元から外す時などは、寒風がおさまった春先以降、新芽の出始める前に行っています。
夏に太い枝を切ると樹液の流出が大きく、秋以降の急激な枝透かしで枝葉が薄くなると寒風で葉焼けを起こすため、大きく枝を切る時は、木に負担の少ない時期を選んでいます。
またこの時、松などの針葉樹の枝を幹の付け根から外す時は、落葉広葉樹とは切る位置が少し違うことに気をつけています。
枝が密集しているため、枯枝も落ちることができない松
一度に枝を抜きすぎると木の成長バランスを崩すため、手加減しながら数年がかりで抜いていく
落葉樹の剪定位置
松の剪定位置
松の枝の剪定後
ブナやケヤキなどの落葉樹は、萌芽後、徒長して垂れさがることがあり、伸びた枝の剪定をお願いされることがあります。
しかし、葉がまだ柔らかいこの時期には手を入れず、葉が固まった梅雨時以降に剪定を行います。
伸びても切らずに待つ。これも植木屋の仕事の一つで、木のために必要なことです。
冬場に強い剪定を行った落葉樹などは新芽が出揃った5月下旬に若芽が出てきます。
枝を切り過ぎたリ不適正な位置で切ったことが原因ですが、これらの枝は木が栄養を確保しようと葉を出しているので、このような枝もまた切らずにおきます。
我慢できずに切ってしまっても、またすぐに枝が出てくるので、切らずにそっとしておきます。
落葉樹の剪定は新芽が固まってから行いますが、植栽もまた同じ。6月あたりから梅雨時に掛けて、庭に木を植えていきます。
秋や春などの落葉期に移植したり植栽したりした木で、根のあまり良くないものは5月末あたりに枯れることがありますが(樹体に残る水分で葉を出し、水を上げる根が無いことから水分が無くなって枯れる)、せっかく植えた木をまた取り換えなければならない事態になることもあり、そうしたことを防ぐためには、この時期の植栽が安全と言えます。
春に掘り取ったり仕入れてきた木を畑で養生しておき、その中で良い状態の物をこの時期に植えています。
梅雨明けあたりから夏場の剪定に回ります。この時期は、夏祭りや七夕、お盆など人が集まる機会が多く、きれいな庭でお客様やご先祖様をお迎えしたいとの思いから、手入れのご依頼が最も集中する季節。
お盆前に1軒でも多く回りたいと気も焦りますが、この時期の暑さは堪えます。体調管理に気を付けながらも、こなすだけの仕事にならないよう、丁寧な仕事を心掛けて頑張ります。
雪国の庭の手入れは、夏にこそ冬を考えて手を入れていきます。冬場に切れない常緑樹などは、夏に枝透かしをしておくことで、雪が乗らない姿にしておきます。
そうすることで、雪吊りをしなくても冬を越せるようになります。
外側だけを剪定した黒松は、枝が混み合っているために雪を落とせず、枝に雪が乗る。
雪透かしを行うと、雪が枝葉をすり抜けて、溜まりにくくなる。
沿岸部の樹木管理で一番気をつけたいのが潮風です。
冬期、日本海から吹きつける強い寒潮風は、潮風に強いとされるクロマツやカイズカイブキなども被害を受けることがあり、植栽や剪定の時期にはかなり気を使います。
透かしの程度なども内陸部より濃くしたり、枝葉が混んだ木などは一気に薄くすると葉焼けや枝枯れを起こすことから、段階的に枝抜きを行うなどしています。枝葉が混んでいると木の内部には風が入りにくく、これまであまり風が当たらなかった所に急に風が当たるようになると樹勢が弱まることがあります。
こうしたことを避けるためにも、しばらく手を入れていない木の剪定を行う時などは、なるべく早い時期に手を入れて、寒潮風が吹く冬までの期間をなるべく長く取って木を風に慣らし、抵抗力を付けさせてあげるようにしています。
真夏の植栽は水管理が大変なことからあまり行いませんが、お店のオープンやお盆のお披露目に合わせる時などは、相応の準備をして行うことがあります。
当地には高木になる常緑広葉樹は自生しませんが、マテバシイやタブ、サンゴジュ等は比較的寒さに強いため、時々庭などでも見かけます。
暖地性の木はあまり薄くしてはいけないと思われてきたところもあり、当地では外側だけを刈る手入れを多く見かけますが、冬場の雪の乗りやその木の個性を活かすことを考えると、多少の透かしを行って自然樹形に近い形にしてあげたいと思っています。
マテバシイなどは枝が荒く、細かく鋏をすると樹形が硬くなることから、自然な仕上がりにするのが難しい木です。このような難しい木に毎年手を入れると自分の技量のレベルがわかるので、とても貴重な機会をいただいています。
枝透かしをしたマテバシイ
手入れ仕事のピークが過ぎ、夏の暑さが和らぐ頃から作庭を再開、10月前後に植栽できるよう骨組みづくりをしていきます。
9月初めでもまだ30度を超える日がありますが、長袖で行う手入れと違い、半袖で仕事ができることをありがたく思える時期です。
松の剪定を秋口に行なうと徒長が少なく、一年通して松の樹形を楽しむことができます。
松の手入れには芽摘みや古葉引きなどがありますが、必ずしもその作業を行わなければならないわけではなく、時期や木の状態によっては、枝や芽を透かすだけですむ場合もあります。
剪定前の松の姿。前年より枝葉は混んできても樹形は崩れていない。
庭づくりは、雪の降り始める11月半ばごろまで行っています。この時期に造成や石積みなどの骨組みを行い、春に植栽して仕上げるなど、年をまたぐ仕事の準備などをしています。
天気が落ち着かず、連日カッパが手放せない日々ですが、シートで雨避けなどをしながら、石仕事に精を出しています。
ということで、1年間の植木屋の仕事をご覧いただきました。植木屋は名のごとく植木を扱うのが仕事で、植物の都合に合わせて仕事をしています。
雪国の植木屋の特徴は、雪の無い時期でも、常に雪や寒さを考えて仕事をしているということでしょうか。
人も木も、無理なく楽しく庭で過ごせるお手伝いができるよう、今後も頑張っていきたいと思います。(2013年1月)