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庭が完成するまで 3.「そこにあるもので庭を創る」

身の回りにある物で庭をつくること、「その地その家の木と石と土で庭を創る」という考えは、雪国秋田の風土と調和する庭づくりを追求する、私の作庭観の根本となるものです。

日本古来の伝統庭園技術を駆使し、里山に自生する樹木や地産の石や土を使って、その地のどこにでもあるものでそこにしかない庭を創ること、ガーデニングでも日本庭園でもない、古くて新しい田舎の庭を創りたいと考えています。

そんな私自身の目指す庭を、自社の敷地を利用して形にしてみました。

 

土の造形 そこにある土で庭をつくる

植栽に適さない残土(砂利や玉石、粘土質の水はけの悪い土)で造成された土地に庭を作ることがありますが、スコップも刺さらないような所に樹木や草花は植えられません。

こんな時、庭づくりの第一歩はまず土作りからということになるのですが、土を総入れ替えするのは大変なこと、残土の撤去や新たに土を搬入する費用もバカにならず、お施主さんも作り手も頭を悩ます問題です。

 

苔山のベンチ・1

苔山のベンチ・2

 

数年前、現場の土中から出てきた大量の石を利用して庭を作ったことがありましたが(柿の木の下で)、その際、余った残土のやり場に困り、昔の土塁をヒントに作ったのが、この苔山のベンチです。

せっかくあるもの、捨てるのはもったいない。植栽には向かない土でも、庭を形作る一つの素材、庭の中の造形として考えれば、新たな使い方も見えてくるかもしれません。

マイナス要因をプラスに変える庭。そこにある土の可能性を考えてみたいと思ったことが今回の庭づくりのきっかけです。

ここでは土盛りした上に苔を張りましたが、庭の雰囲気によっては芝生でもいいし、土そのもので仕上げても面白いのではないかと思います。

お金を掛けず、あるものを利用できたらこんなに素晴らしいことはありません。

 

赤土

 

敷地(植木畑)の表土は黒土ですが、50センチも掘ると赤土が出てきます。今回は、畑の整理の際に出てきたこの土を利用します。

 

地ゴテで叩き締める

 

近くにあった庭石を据え、踏み固めながら盛り上げていきます。仕上げに地ゴテで叩き締めました。今回は叩けば締まる土だったのでそのままやりましたが、石灰などを混ぜればより強度が増すのではないかと思います。ただ盛り上げていくという工法は、粘性のない砂利や砂混じりの土では難しいかもしれませんが、それはそれで三和土や洗い出しなどに使えるのではないかと思います。

 

スサ藁を作る

そばには、雪囲いを外した時の縄が積んであります。ある程度の長さのものは使っていますが、短いものはただ腐らせていました。藁は優れた自然素材です。せっかくなのでこれも使ってみよう!ということで、短く切って揉み、スサ藁を作ります。

 

土壁

 

土と藁といえば土壁ですが、スサ藁の強靭な繊維の力が土を繋ぐ役目をします。この辺りでも古い土蔵を見かけますが、今これを作る左官屋さんはいないそうです。土壁は昔の人の暮らしの知恵ですが、そんな素朴な田舎の風景を庭に活かせたら素晴らしいと思います。

 

ベンチ制作・1

 

土が乾くのを待って、赤土と石灰、砂、スサ藁を混ぜて練ったものを塗りこんでいきます。土蔵などの屋根のある土壁と違い、雨の当たる野外では、強度を高めるために多少の硬化剤を混入することもあります。

 

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ベンチ制作・2

 

こんな感じに仕上がりました。ひんやりとした土の質感がとても気持ちいいです。土の両端には鳥海石を使いましたが、これは土を留めるための強度的な意味と、造形的な面白さを狙ったものです。土壁の中にアクセントとして入れた鳥海石は、水鉢にもなりベンチにもなります。こんな感じの造形は、オープンな前庭のちょっとした仕切り、門としても使えるかもしれません。

 

ベンチ制作・3

 

門として使うなら、もう一つ必要。ということで、向かい側にもう一つ作ります。

 

ベンチ制作・4

 

せっかくなので、こちらにもベンチを作ります。

 

ベンチ完成

 

というわけで試し座り。二つとも真っ平な石ではありませんが、この微妙なくぼみ具合がまた絶妙な座り心地です。水が溜まるとお尻が濡れるので要注意(笑)。

門が出来たとなると、次に来るのはアプローチ。テラスとしても使えるようにしよう!ということに。そんなわけでアプローチは広めに取ることにしました。

 

アプローチ兼テラスづくり

 

畑で植木を掘っていると、下からは赤土ばかりでなく砂利や石ころも出てきますが、これも振るいに掛けて洗えば使えます。手持ちの鳥海石と山土を合わせ、洗い出しの技法でやってみることにしました。洗い出すと、中から細かな砂や小砂利の模様が浮き上がってきます。大小の礫が入り混じり、とても面白い風合いです。現場からこんな土が出てきたらワクワクしますね。

 

延段づくり

 

用意した土が足りなくなってしまいました。苦肉の策、残り部分は別の土でやることに。土の色に合わせたゴロタで、先に要所に配石していきます。

 

青色の延段

 

出来上がったのは、なんと青色の延段。実はこの土は,前回の「畑で遊ぶ3」で使用した地産の凝灰岩の粉なのですが、粘力があるのでただ敷いているだけでも型崩れしません。何かに使えないかとずっと考えていたのですが、今回これを洗い出しにしてみました。この青い延段、洗い出す前はミントのような色をしていて、さすがに違和感があったのですが、洗っていくうちに徐々に砂の粒々感が出てきて、なんともいえない面白い風合いになりました。

 

反対側にも石のベンチを据える

 

反対側にも石のベンチを据えました。ベンチには道が必要です。今度は質感の違う黄系の山土と砂利で洗い出しの延段をやります。振るった山土に硬化剤を入れ、頃合いを見て大きめの砂利を叩き込んでいきました。使ったことのない素材でやる時はいつも、セメント色が強いように感じて庭に馴染むかなと思うのですが、洗い出して砂利が浮き出てくるにつれてその不安もほどけていきます。左官仕事は配合やタイミングが難しいですが、無限の面白さを秘めているなぁと感じます。

 

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土の造形 そこにある土で庭をつくる

園路完成

 

園路も完成、いよいよ植栽です。「その地の木で庭を創る。」が私の庭づくりの理想ですが、これまで自然樹形の樹木だけで作った庭はあっても、庭のすべての樹木を里山の木だけで作った例はまだありません。自生樹だけの植栽は私の長年の夢でした。昨春、今春と、実生の山の木を移植して育てていたのですが、今回いよいよそれを使って庭を作ります。

 

植栽状況

 

植栽状況です。今回植えたのは、落葉樹ではコナラ、ヤマモミジ、ガマズミ、クロモジ、コハウチワカエデ、アブラチャンなど。常緑低木ではアオキ、ヤマツゲ、下草としてシダ、コケ、ヤブコウジなどを植えましたが、これらは全て、この敷地の周囲の里山に自生する樹木ばかりです。この他にも、ツリバナやエゴ、マンサク、トチノキ、ホウノキ、コブシ、ヤマザクラ、マユミ、ナツハゼ、ソロ、ケヤキ、ユズリハ、ミヤマシキミなども自生しますが、同じ地域でも、その場所によって生えている木や混合している樹種が違います。そんな、里山で共生している樹種を組み合わせて植栽していきます。

(これまで山の木を植えた庭の作例です)

 

山に生えているように木を植えていく

 

山の木は、山から谷、勾配のある斜面から日の当たる低い方へと、空間を求めて枝を伸ばしていきます。雪国の木は雪で根元が押されるのでほとんどが根曲がりですが、そんな雪国の木の特性を活かし、山に生えているように植えていきます。全体の植栽で穏やかな樹冠、林冠を作るように寄せ植えしていきますが、この時、樹冠や枝張りを揃えることに気を取られて根元のソリ(曲がり)を逆に植えると、雪圧の耐性の無い反対側の幹は、雪の重みで折れることがあります。

 

背景と仕切りを創る

植栽完了

 

植栽も完了。庭が出来上がってくると背景が気になってきます。コナラの幹の線をもっと綺麗に見せたいと思い、背後にも土壁を作ることにしました。後ろはもう隣地境界なので、土盛りするほどの余裕はありません。さてどうしようと思案していたら、そこには春先伐採して寄せていた松の幹がありました。この幹の曲がりを利用して光悦垣風の土壁をやってみたら面白いのではないかと思い、剪定枝で小舞いを組み、土を塗っていきました。

 

土壁を背景としたコナラ

 

土壁を背景としたコナラの幹の具合がとてもいい感じです。土の持つ味わいは本当にいいです。ひとまずこれで完成にするつもりでしたが、今度は側面が気になってきました。横には立石があります。これにも土壁を合わせてみたらどうだということで、今度は曲がりのあるサクラの幹を使い、以前外してきていた建仁寺垣の割り竹を利用、小舞を組んで土を塗りました。小窓も付けて遊んでみました。

 

ひとまず完成

 

やればキリがないので、ひとまず完成です。前庭のような、テラスのような。使った素材は残土と伐採木と山の木だけ。そこにあるものでも、創意工夫で庭になります。

 

人が入って完成した庭

 

この庭は見せる庭ではなく楽しむ庭、人が入って初めて完成する庭です。晴れて子供たちを呼び、遊んでもらいました。長女の第一声は『お父さん、なんか秘密基地って感じだね!』でした(笑)。

 

漬物瓶を代用したテーブルで遊ぶ

 

この庭に行く途中、クリを拾い、花を摘んでいきました。漬物瓶を代用したテーブルで、飴玉くわえた画伯がなにやら作っています。

 

漬物瓶を代用したテーブル兼花入れ

 

こんな感じに仕上がりました。

今後、また暇を見て庭を広げていきたいと思います。

興味のある方は、どうぞお越しください。

 

この庭の様子は、2007年作庭「森の秘密基地」でも紹介しています。

 


 

庭が完成するまで

作庭集

 

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