この庭は、お施主さんのためにつくった庭ではなく、『その地その家の木と石と土を使って庭をつくる。』という私の作庭観を具現化するためにつくった試作の庭です。
素材の全てを地産の物で作った経験はこれまで無かったので、自社の敷地でそれを試みてみました。
土は庭の造形と成り得る優れた素材です。その家にある土、その地で産する土を使えたら、風土と調和する庭になるのではないかと思います。造成地などでは、植栽土に不向き場合もありますが、捨てるのはもったいない。そんな残土の利用法を考えてつくってみたのがこの土の造形です。鳥海石と合わせ、門柱と塀のような、でもベンチもある。土壁のひんやりとした土の質感がとても気持ちいいです。
テラスは鳥海石と砂利の洗い出し仕上げですが、この砂利もここの土から出たもの。何でも使えます。
隣地の境には、伐採して寄せていた松の幹で土壁を作りました。幹の曲がりをそのまま利用したので、野趣的な面白さが出たのではないかと思います。使えるものは何でも使います。手前に植えたコナラの幹の線も、この土壁の背景があることで生きてきます。
土壁内部の骨組み(小舞)も剪定枝で組みました。自然素材はいずれは土に返るもの。残土も伐採木も捨てずに使えば立派な素材になります。
何も無い所では、直接体に当たらないと風を感じませんが、柔らかな枝葉のある落葉樹があると、葉がそよぐ音で風を感じることができます。当地では丸い仕立木でなければ庭ではないという風潮がありますが、木は見る物ではなくて雰囲気を感じるもの、爽やかな木陰を作り、そよ風を呼ぶもの、周囲の自然と庭を繋ぐという役割を活かしてあげたいと思います。
使用した木は、コナラ、ヤマモミジ、ガマズミ、クロモジ、コハウチワカエデ、アブラチャンなど。常緑低木ではアオキ、ヤマツゲ、下草としてシダ、コケ、ヤブコウジなどを植えました。これらは全て、この敷地の周囲の里山に自生するものばかりです。周囲にあるものと同じ樹種を用いることで、庭と山、家と山、街と山を繋ぐことができるのではないかと思います。
あとがき
タイトルの『森の秘密基地』は、この庭を見た長女が付けた名前です。子供は五感で感じるままに行動します。子供が遊べる庭は大人も楽しいはず。どこにでもあるもので、そんな庭をつくってみたいと思いました。お金を掛けなくても、ちょっとの工夫で庭はつくれます。今回は、そんな庭づくりをご紹介しました。
※この庭づくりの過程は、『庭が完成するまで3 そこにあるもので庭をつくる』で紹介しています。
2007年3月作庭 作庭地 能代市