HOME > 工事のご依頼 > 庭が完成するまで > 「既存材を活かした改良の庭」
HPからのお問い合わせで、作庭途中の作業の様子も公開して欲しいとのご要望をいただきました。
試行錯誤の繰り返し、一歩進んで2歩下がるような庭作りですが、こんな仕事振りでよろしければという思いで、ご紹介させていただきます。
大体作業順に紹介していますが、天気や資材の到着を待って、臨機応変に作業の順番を変えたり、現場ではいろんな作業を平行して行っています。料理の時、鍋の湯を沸かしながら下ごしらえしたり炒め物をしたりしているのと一緒です。
自己流で実験的に行っていることもありますので、ご同業の方はご注意ください(笑)。
更地での作庭と既存庭の改造では段取りも変わりますが、今回は改造の仕事をご紹介します。樹木の扱いなどは季節によって変わりますので、今月の庭仕事を参照してください。
なお、完成した庭の様子は、コンテンツの2006作庭紹介「テラスを行く流れと山野草の庭」の方でも紹介していますので、併せてご覧下さい。
設計・打ち合わせ
設計にあたり、現場を下見した上でイメージを練り、庭のポイントのイメージを畑に試作したモノと、簡単なラフスケッチ、平面図を併せて見ていただきました。既存の物を活かし、テラスと流れのある、山野草を楽しめる庭を考えました。
図面は水物です。あくまでもイメージなので、現場の状況で作りながらどんどん変わっていきます。図面通りに作られた庭が必ずしも良い庭ではなく、作った庭が図面以上のモノにならなければ意味がありません。そんなことからも、これまで私が作った庭も幾つか見ていただきました。
予算
ご予算は、大枠の目安を伺って、まずその予算で庭の骨格と見所をしっかりと作り、後は随時追加していくという形を取らせていただきました。予算内で、あれもこれも全て行おうとすると、必ずどこかに無理がきます。より完成度の高い庭にするためにも、後付けできる所は残し、まずは作るべきところをしっかりと作るというやり方が、お互いに安心できる最良の方法だと思います。
そのためにも、事前に作庭者の作庭観(クセ)と人間性、実際に作ったものを見ていただくことにしています。
着工
予算と内容も決まり、いよいよ着工です。いつもながら取り掛かりの日は、これから始まる庭づくりにワクワクします。
施工前です。応接間の手前に樹木があるので、奥の庭が見えません。
移植と地割
工事は、一度植木を掘って寄せるところから始まりました。まずは下草の掘取りから。エビネを掘っています。庭に仮植場所がないので、このようにケースに入れて、軒下に置いておきました。下草植えは庭づくりの一番最後になりますので、乾かないように周りにちゃんと土も入れておきます。植えるまでの水遣りも忘れてはいけません。
目の前の樹木が寄せられました。樹木がゴチャゴチャしていて庭全体が見渡せないと、なかなか庭の構成の見当がつきにくいものです。視界が広がった時点で、より具体的なイメージが湧いてきます。
植木を寄せ、土を少し掘り下げて流れのラインを出しています。通常移植の場合は根巻きしますが、根が良かったのと移動距離が短いこと、すぐに植えるので、そのまま掘り上げました。植えるまで間がある木はコモなどを掛けて乾かないようにしたり、低木などは邪魔にならない所に仮植えしました。
だんだん植木が植わってきました。ここが近景のポイントになります。ウメモドキやナツハゼなどの山の木を寄せ植えして、疎林を作ります。奥に石が見えますが、これから石組みします。この石は土留工事の時に寄せられた物で、植木を寄せないと出して来れませんでした。搬入路の確保と、植木の根を乾かせたくなかったので、通常と順番は逆ですが、先に木を植えました。大きな木は動かしませんので、既存の木とのバランスが難しかったです。
石組
重機が効かない所なので、コロとテコを使い、人力で石を移動しています。植えた木に当たらないように気をつけながら目的地まで運びます。一石移動するのに1時間、極めるまでにさらに1時間、全体が組み終わってから微調整に1時間。一石極めるのにほとんど半日掛かりました。石組とはそんなもの・・・。
ようやく目的地まで辿り着き、場所に座りました。傾きや向き、高さ、他の石とのバランスが決まったら、動かないように突き棒でガッチリと突き固めます。
近景となるバードバス周りの石組が完了しました。筧は、剪定した時に寄せておいたサルスベリの枝をくり抜きました。曲がりが強くねじれているので、水がこぼれないように傾き具合の調整が大変です。支えの角度や高さ、筧の景色、水鉢のどこに水を落とすか、かなり気を使います。ジョウロで水を流して確かめました。
段取りには気を使う
あらかた石組と植栽も終わり、ようやく庭の隅に材料を置くスペースが出来ました。これからテラスに敷く大谷石と石張り用のゴロタを搬入します。塀越ししなければ入れられないので、クレーン車で吊り込みます。道が狭いので、ここまで来るのも大変でした。帰りはバックです(泣)。資材置場や搬入路の確保が、仕事の効率に大きく影響しますので、事前確認や段取りには気を使います。
テラスと流れの配石
大谷石を敷いていきます。直線のU字溝との調和を考えて、直線的なこの石を選びました。直線つながりで馴染みを良くします。
手前の大谷石を敷き終わり、流れの護岸の石組に入りました。できるだけ自然に、広い所狭い所、瀬落とし、浅瀬、よどみ、いろんな水の動きを想定して護岸を作っていきます。
護岸の一部は石張りにします。周りの石組みと合わせて、鳥海石のゴロタを使いました。護岸は、自然石の石張り、大谷石、苔などいろんな表情を持たせました。図面では、ここは白神山系の石でした。
目地の仕上げは苔目地です。歩く所なので丈の低い苔を使います。駐車場やコンクリートの壁に付いているものを剥いできて使います。現地調達です。苔目地は根気が要ります。腰も痛くなります。彼は優れた「苔目地職人」です(笑)。一人で黙々とやってました
完成です。コンクリートの苔とバカにしてはいけません。汚い話トイレの浄化槽とかの苔でもいいのです。おさまる所におさまれば、こんなにキレイになります。2平米ほどの石張りの目地に、土入れ、苔剥ぎ,苔張りで一人で2日。石張りより手間が掛かりました。「苔目地職人」も満足!?(笑)。
後ろの大谷石のテラスと流れの石張りも完成し、これから川底の仕上げに掛かります。でもその前に大変な仕事が・・・。
粘土の流れづくり
流れに砂利を敷くと、葉が落ちた時の掃除が大変なのと、よほど水量を多くしないと水の動きがわからないので、川底は粘土仕上げにすることにしました。色具合を見るために、試作で泥だんごを作ってみました。粘土だけでは乾くとひび割れしますので、砂を混ぜます。右が粘土だけの固まり、左が砂と粘土を混ぜ合わせた物です。
休みの日に子供と作りました(笑)。後でピカピカに磨きました。これも家族サービスの一環です。家内は平日に現場に寄ったついでに、奥様の好意を間に受けて家に上がり、1時間もお茶を飲んで行きました。これも営業?口下手な亭主は大助かりです。
粘土の流れは初めてなので、ほとんど自己流です。粘土は前の現場から出た残土から選って使います。この土は黄土色に朱色が混ざる面白い色をしていました。まずは粘土についた黒土を落とします。
まるで肉の塊のような粘土です。硬いので、手でちぎりながら水につけて柔らかくしていきます。ものすごい握力が要ります。
粘土と砂を混ぜ合わせています。粘土がなかなかこなれないので苦労しました.。後で教えてもらったことですが、ワラスサを入れ足でこねたほうが混ざりも良く、粘土同士を繋ぎ止める役もしていいそうです。
子供の頃やった彼岸だんごを作る要領で、粘土の皮の上に砂の餡を乗せ,グチャグチャに揉み混ぜていきました。手で潰しながら作ったので、握った分をダンゴにしていきました。雨の日にちょうど良い仕事でしたが、一輪車2台分を作るのに,いい大人が3人で2日。なんだか気の遠くなるような、途方もないことをしている気がしてきました。もっと良いやり方あるんじゃねえか?
いよいよ流れに塗り込みます。粘りが強いのでコテが重いです。コテ仕上げだと仕上がりが硬いと思い、最後はゴム手を脱ぎ、指先で川底を押しなでるようにして仕上げていきました。擦りすぎて指紋が無くなりそうでした(笑)。
乾くまで2日掛かりました。石の縁についた粘土を洗い取ります。今度は「洗い職人」です(笑)。
こんな感じの流れになりました。水を分けるために、粘土で所々に瀬を作りました。三日月のような、バナナのような(笑)。
土壁
上の要領で、今度は現場から出た粘土を使い,コンクリートの擁壁に塗ってみました。流れに使った粘土よりも茶色味が強く、見るからに「泥」という感じの色です。粘りはそれほどでもありません。これも初めてやりましたが、不思議と落ち着いて見えます。着色剤では出せない色だなと思いました。砂は同系色の珪砂を使いました。
乾いたらちょっとカサカサになったので、ワイヤーブラシで擦ってみました。きめが細かくなって、ふわっとした柔らかな仕上がりになりました。左官屋さんが作ったコンクリートを隠すために、植木屋が土を塗る。面白いですね。土壁は本来、左官屋さんの仕事です。泥壁だけに、植木屋のイタズラ仕事で、左官屋さんの顔に泥を塗ることにならなければいいのですが(笑)。
擁壁の目隠し
上の、泥を塗った擁壁の施工前です。L字型の土留擁壁になっているのですが、縁側からの眺めを考えて築山の位置を決めたら、庭への導入部が狭くなってしまいました。ここは一番最後に手掛けたのですが、だんだん庭が出来てくると、このコンクリートが気になってきて、なんとかしたくなってきました。庭との繋がりも悪いので少し細工させてもらうことにしました。
ハンマーで壊しています。せっかく左官屋さんが作ってくれた擁壁を壊すのは申し訳ないのですが、やはり庭にコンクリートは不似合いです。石敷きで余った石を積んで隠すことにしました。壊したガラは石積の後ろに入れましたから無駄になってません(笑)。
やっぱり、中に鉄筋が入っていました。左官屋さん、本当にいい仕事をしてくれてます(泣)。サンダ−で切断しています。
ようやく壊れて、今度は石積みです。L字型なので、内側の部分をうまく曲げていくのが難しかったです。もう少し小さ目の石もあればなぁと思いましたが、残った石で、オマケで作ったコーナーなので・・・。でも、そんなに悪くないと思いますが。
石積の目地には粘土を詰めて苔目地に。石積ですが、一石の岩に見せたいと思いました。露頭岩がひび割れて、そこに土がたまり、苔が生えてきたというイメージです。山中の岩ですが、クジラ岩と名付けました(笑)。
平板敷
四角い大谷石とコンクリートの通路との繋ぎを良くするために、既存の四角い平板で小さなテラスを作ります。石積や通路との馴染みを考えて、加工して曲線のラインを作ります。チョークでラインを試し描きしています。
こんな感じで仕上がりました。石積と平板の間には苔を張って、両者を穏やかに繋いでいます。側溝の上には,既存のゴマ石を敷きました。
石組に灯りを仕込みます。石の自然な窪みを利用して、裏側から穴を開けています。こんな穴が空きました。
裏側から見るとこんな感じです。今回は庭園灯を仕込みました。これはご主人の仕事です。電球は、玉が切れれば取り替えなければなりません。取り替え作業を考えて高さを調整します。
この小さな穴から灯りがこぼれます。うまいぐあいに自然な穴が3つできました。
暗くなってから、灯りを試しました。闇夜にボワッと,かすかな灯りが浮かびます。
昼間見るとただの石組です。植栽をしたら柔らかく見えてきました。灯篭は光るとわかってますが、光るはずの無いところが光るという意外性を楽しんでもらえれば。庭にちょっとした驚きがあると楽しさが増します。
現場の材料は大切に
現場にある材料は無駄なく使います。土から出た小石を洗い、小砂利をふるっています。この時点ではまだ、流れの洗い出しにするか、タタキの延段に入れるか、流れに敷くか、まだ決まっていませんでした。合わなければ使いません。使わないと、この「振るい職人」の仕事はボランティアになります(笑)。
流れに敷きました。「振るい職人」の仕事が生きました(笑)。
粘土も出てきたので、擁壁と平板の下に塗りました。
漬け物石も、流れの沢飛石に使いました。テラスの四角い石は石屋さんが残していった石垣の角石をベンチに転用しました。割肌が面白いです。テラスに埋め込もうと思いましたが,テーブルを置いた時に移動できるようにしました。大谷石と石質は違いますが,四角つながりなので馴染んでるかと。
灯りの部分を盛り上げたので、後ろ側は土留の石積をします。一個一個付けては離れて見て、全体のバランスを見ます。
昨日撮った石積の写真
この後紹介する延段も同じ鳥海石ですが、山の雰囲気を出したくて、石積には溶岩のような赤っぽい柔らかい石を使いました。
延段づくり
石畳のことを延段といいますが、ここは山道なので、ランダムに敷いていきます。厚い石を使って、石と石をかみ合わせるようにガッと組んでいくので土ぎめで大丈夫。モルタル不要の延段です。
一応完成しました。一日掛かって、15歩で30個ぐらいの石を使いました。この後、なんだか納得できなくて2回やり直しました(笑)。
やり直して苔を張った姿です。大小の石の取り混ぜ方や散らし方で雰囲気が変わってきます。山道らしく少し凸凹した石もありますが,歩くのに支障はありません。小さ目の石で畳むと、もっと繊細な感じになります。
完成した石積と延段です。ここは庭のポイントの裏側で裏道なのですが、景色になってきました。
石工事や高木の植栽が済んで最後に下草を植えます。1人でやっていると、どうなっているのかわからないものです。石組みと同じく、離れた所に一人いて、傾きや全体のバランスを見ています。下草を植え終わったら、苔などのグランドカバーを張ったり、土の部分を綺麗に均したりして完成となります。
あとがき
どうでしたでしょうか、福岡造園の仕事振り。
土の中は掘ってみなければわかりませんから、実際の現場では、配管が出てきたり、あるはずの水道管が見つからなかったり、昔の家の基礎コンクリートが出てきたり、樹木を植えるには邪魔な砂利や石、粘土が出てきたりと、いろんなアクシデントやハプニングがあります。
それで植木や景石の位置を変えなければならなくなったり、予定していたことが出来なくなってりして作業がストップ、現場で佇んでしまうこともしばしばです。本当に現場ではいろんなことが起こります。
そんなことがあると作庭のモチベーションが下がるものですが、そこをなんとか前向きに考えて工夫していくと、逆にそれが庭の面白さに繋がる場合もあります。あきらめないで難点を逆手にとって考えていくと、庭づくりがドンドン面白くなっていきます。これが図面では表せない庭作りの魅力でもあります。
こんな予期せぬ出来事で仕事がスムースにいかないこともありますし、若い人たちと、新しい庭を作る度に毎回違うこと、まだやったことの無いことを試していますので、それもまた工事を遅らせる原因です(笑)。本当にはかどらない仕事をしています。儲かりません(笑)。
でも、庭づくりは紙の上でやるのでもパソコンで作るのでもなく現場で作るものなので、これが庭づくりなんじゃないかと思います。
私の技術は、ほとんどが独学で、それが正しいのかどうか自分でもわかりません。40過ぎても、まだまだ出来ないこと、やったことの無いことがいっぱいあります。 裏を返せば、自分にはまだまだ可能性があると、都合良く捉えています(笑)
「失敗は成功の元。、やってみなければわかりませんから、失敗しても次に活かせば いいんだ、壊れたら直せばいいんだ、というぐらいの気持ちでやらないと、技術も人間も進歩はないようです。
「創造」や「創作」は、誰もやったことのない新しいものを創るからこそ「創」という言葉がつくのだと思いますが、「モノづくり」の先人たちは、そうやって試行錯誤を繰り返してきた中で、素晴らしいものを生み出してきたのではないかと思っています。
「職人は失敗してもいいんだ。」
左官の榎本新吉さんや挟土秀平さんも言っていたことです。
今回も、完成した日に庭の会のメンバーを呼んで庭を見てもらいました。
施工中も、これまで知り合えた全国の作庭者の皆さんからアドバイスをいただきながらの、自分なりの実験をしてきました。
ここで自分の庭づくりを公開することで、一緒に勉強出来る、まだ見ぬ仲間を増やせたらいいなと思っています。
ご協力いただいた皆様に、この場を借りてお礼申し上げます。
2006・11・9 福岡造園
→作庭集