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街路樹は微笑む〜一市民としての草の根運動
「全国街路樹サミット」開催を夢みて

樹木という生命体は、街路樹であろうと住宅庭園だろうが、その場に植えられた以上、命がけで生きる。また、樹木を維持・管理するのが造園業者か植木職人といった職域の違いなど樹木には関係ない。そこにあるのは生命体同士の「生きる」という共通項目だ。こうした生命体として捉えた街路樹のありようを問い質す活動を本誌のリニューアル以前から実践されてきた福岡徹さん(秋田県能代市)が、その後の奮闘を記されたので、ご紹介したい。(編集者前文)

ふるさとの今

三年間の活動が実り、市は二年前に強剪定の見直しを表明しました。現在、市道の街路樹剪定は造園業者の手によって行われ、以前のようなブツ切りはほとんど無くなっています。また、市のこのような動きを受け、やはり強剪定が行われてきた県管理の街路樹も、徐々に透かしを取り入れた剪定に変わりつつあります。

活動当初は主として剪定の美醜についての提案を行っていましたが、強剪定が無くなりつつある現在は、よりハイレベルな樹木管理を目指し、木に負荷を掛けない優しい剪定法の提案を行っています。市民向けの剪定講座などがその一つですが、ここで覚えたことを地域に持ち返っていただき、身近な公園の管理などに活かしてもらえればと思っています

この講座は市の関係部署にも案内、緑に関わる課の連携強化や樹木管理に関する庁内の共通認識の構築に役立てばと思っています。市民行政の意識や知識を高めることが、二度とブツ切りを引き起こさせないための一番の抑止力になると思いますので。

一般的に、住民の苦情で街路樹剪定が発注されるケースが多いようですが、予算の厳しい自治体では職員自らが行う所もあります。この時、樹皮の早期再生を考えて適正な位置や角度で切ることを知っていれば、枝抜きまでは無理でも、通行支障の下枝ぐらいは可能となります。

また、地域の植木屋さんがボランティアで木に登り、交通整理や枝の積み込みは行政、掃除は町内会でというように分担して行えば、『協働』での街路樹管理ができます。実際の剪定ではほとんどの作業を造園業者がやると思いますが、このやり方ならその会社の職人すべてが木に登ることができ、一人親方の植木屋さんでも参加できるのです(もしかしたら個人登録制のNPOなどでも出来ることかもしれません)。

田舎では公園は地域のものという意識が強く町内会で管理するケースもありますが、このような協働作業で行うことにより、街路樹も地域のものであるという意識が強くなるのではないかと思います。また反対に、街路樹が市民みんなのものであるとの意識付けのために、街路樹を愛する市民や沿道に住まない人たちの協力で落ち葉掃除ができるような仕組みも必要で、これは、富山の河合耕一さんも呼び掛けられています。

会の研究としては市の街路樹をお借りし、萌芽更新による自然樹形への再生実験などを行っていますが、この方法もまた河合さんから教えていただいたことを元にしており、心強い先人がいることをとても有り難く思っています。

   

一植木屋から一市民へ

私は現在、街路樹剪定の実務にはタッチしておりませんので、一植木屋としての活動から一市民としての活動へとシフトしています。仕事でやっていた時もいうべきことはいってきましたが、今の立場になり、離れてみて解かったということもあります。

街路樹の問題は市民生活と密接に関わることですので、仕事を受けるという業者の立場でいると見えないこともあるような気がしています。検査をクリアできればOKという公共工事には特にそんな傾向があるように感じていますが、仕事の糧として木を見ると、街路樹を命ある生き物として見る意識が薄れてくるように思うのです。

私は合併前までは隣町の住民でしたので、街路樹の多い能代の街のことを知るため、街歩きや落ち葉掃除などの市民イベントにも参加しました。街なかを歩いてみると、公園や街路の木の幹に張り紙や看板が付いている所、腐りかけた支柱がそのまま放置されている所などを見かけます。剪定だけすればいい、言われたことだけやればいいという意識でいると、発注側も作業する側も、景観や木の命にかかわる大切なことを見落としてしまうようです。

このような看板を見つけた時などは写真を撮って関係課に報告、看板の内容によって担当課が異なりますから、そこから各方面に連絡していただき、対処してもらっています。気付いた時にやらなければなかなかできませんので、仕事の移動中や一服のジュースを買いに歩いている時などでも見つけたら写真を撮り、空いた時間に役所に寄るといった感じですが、このようなことを二年続けた結果、街の景観は格段に良くなりました。

また、この街歩きでは、時々街路樹の説明をお願いされることもあります。自分が街を知るために参加しているイベントで緑の啓蒙のチャンスをいただけていることをとても有難く思っています。

能代のクリーンアップ事業には官庁街の落ち葉掃除がありますが、私は三年前から家族やスタッフと参加しています。昨年は落ち葉掃除の前に地元紙に寄稿、市民の方々に参加を呼び掛けたことから、街中以外の方や議員さんなども参加してくれました。もちろん、能代が誇る「木陰の会(本誌一九三号声の交歓室掲載)」も元気いっぱいに参加しています。

そんな中、昨秋の落ち葉掃除での市長さんの挨拶はとても心に残るものでした。昨夏は猛暑で街路樹の木陰がとても有難かったことを例に、参加者のみなさんに街路樹の役割を伝えながら、集めた落ち葉を腐葉土として活かしていることなども紹介、木に感謝の心を持って掃除しよう!と、呼びかけてくれたのです。参加者の多くは中学生ですので、このような意識を育んでいくことが緑豊かな未来の故郷へと繋がります。「ゴミの無い日本一きれいな街に」というこの掃除は市長さんの挨拶により「落ち葉に感謝する日本一心の美しい街」へと進化したようです。

 

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「全国街路樹サミット」開催へ

昨年は、啓蒙活動の一環として二つの街路樹展を開催しました。二月の「日本の街路樹を考えるー小さな街路樹サミットin能代(本誌一九三号の「緑の窓掲示板」で紹介)と、十二月の街路樹景観写真展「美しい緑の街並みを創るには」です。これまではネットや地元紙への寄稿を通して街路樹の大切さを伝えていましたが、継続的に市民が閲覧できる場をと、この街路樹展を思い立ちました。

二月の展示は全国各地の街路樹事情を紹介する新聞や専門誌の記事と(本誌「街路樹は泣いている」シリーズも展示)、改善活動を行う個人や団体の方々のHPの記事などを掲示したものですが、地域の問題は全国の問題で全国の問題は地域の問題であるとの視点に立ち、幅広い視野で街路樹を考えるための「知る機会」として行ったものです。

サミットという名前はかなり大げさですが、これは前年に角館(秋田県大仙市)で開催された「桜サミット(桜をテーマにまちづくりに取り組む自治体の全国会議)」を聴講、そこは先進地の取り組みや課題が一堂に会した情報交換の場でしたので、  街路樹でもこのような場があればありがたいなと、いつか本当のサミットに発展することを願い、その名を冠することにしました。

時々、県外の行政の方からも強剪定された街路樹の再生法についての相談を受けるのですが、このような方々が求めているのは具体的な再生法です。自治体が置かれている状況はそれぞれ違い、自分の街の条件に合う再生法を探すのは大変ですから、さまざまな事例が集まり、再生に直接携わった人が集まる場はとても貴重だと思うのです。いつか能代の街路樹が再生した暁には、能代が主管となって全国初の「街路樹サミット」を開催できたらなと夢見ています。

一個人の力でどうにかできることではありませんが、どう進めたらいいのかさえまったくわかりませんが、そんな大それた野望だけは持っています。主管でなくても布石でもいい、先進自治体や専門大学がそのような動きを作る契機でもいい。そのためにも、本誌の誌面をお借りして「田舎にはこんな声があるぞ」と、ここに残しておきたいのです。先ずはその取っ掛かりとして、これまで「街路樹は泣いている」に登場されたみなさんでの座談会とか、本誌の読者である全国の庭師さんへのアンケートを行うなど、「誌上全国街路樹サミット」なども面白いのではないかと思っています。

   

後戻りしない方策と連携をつくる

十二月の「街路樹写真展」は、実際に見てきた県内外の美しい街路樹を紹介する中で、なぜこの街路樹が素晴らしいのかを解説、サブテーマである「人と木の共生について考える」ための機会としました。展示では日本で初めて街路樹条例を策定した埼玉県久喜市の例や、街路樹指針を作成し街路ごとの景観目標や剪定仕様に従って管理される江戸川区の街路樹なども紹介、能代でも景観条例や街路樹指針を持つことの必要性を提案しました。

期間中、この江戸川区役所の街路樹係さん(土木部保全課街路樹係)からは電線と共生する木の写真を提供いただいたのですが、電線を包み込むようにしてある街路樹の優しい姿には会場を訪れた多くの方々が感嘆したものです。このような写真を見ると、木は電線の邪魔をしているのではなく「木によって電線が守られている」ということがわかります。

電線については我々植木屋の側も知らないことが多く、街路樹に関わる専門分野の人が話し合う機会の必要性を感じています。全二回の街路樹展のポスターには柳さおりさん(長野県松本市)の言葉を引用させていただきましたが、このような場を持つことの大切さは以前から柳さんが述べられていたことでした。行政には毎年のように会議を申し込んでいますが、向かい合っての話はどうしても「対役所」という感じになりますので、やはり柳さんのいわれるように「円卓」を囲んだ会議ができないものかと思っています。「街の木を良くするため」という前提の元で会議を行えば、円卓だけに言葉も丸く一丸になれるのではないかと思うのです。能代のスローガンは「わ(和・輪・環)の街」。円から生まれた縁は輪になり、どんどん大きくなっていくことを願っています。

   

終わりに

「私利があったら志とはいわんがぜよ!」

これは、大河ドラマで坂本龍馬がいったセリフですが、テレビを見ていて胸が熱くなりました。最近、全国で街路樹改善を提起する造園業界の動きを耳にしますが、願わくば、業界のためのみならず、木のためふるさとのためであってほしいと思います。

志とは武士の魂。鋏という刀を携えたサムライの心の輪が全国に広がることを、遠く能代の地から祈っています。サムライである前に一人の人として。

福岡 徹

 

(追記 一月末、市県の連携会議が開かれ、街路樹に関わる専門分野の方々が参加の元、市内の街路樹管理についての画期的な協議が持たれました。)

 


参考リンク

『街路樹を考えるページ』新樹造園HP(富山県)

『落葉樹の剪定』


 

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