「雪国の庭はどうあるべきか」
修行を終え秋田に帰ってからの15年間、ずっと考えてきたテーマです。
東京で雑木を使った自然な庭づくりを学んできた私には、当時この地方に多く見られた、どんな木でも丸く厚く仕立ててしまうやり方や、庭に対しての樹木の数の多さ、庭の構成よりも名石名木の存在感が目立ち過ぎる庭の多いことに違和感を覚えたものでした。
庭は、本来自由でお客様の好みや庭師の技術、時代と共に変わるものですが、実際に秋田で仕事をし、いろいろと庭を見て回る中で、もっと地域性を活かした雪国の環境に適した本質的な庭づくり、管理を行っていきたいという思いが強くなっていきました。
例えば、
・枯れ枝や混み合った絡み枝を取り除き、枝の線が綺麗に見えるような透かし剪定をすれば、風通しが良くなり、病虫害や雪害を最小限に抑えられる。
・山の木を無理に手を加えず自然樹形のまま使えば、冬囲いの要らない、自然で丈夫な優しい雰囲気の庭が出来る。
・高価な木や石を重視した庭より、庭の構成に重点を置き、地産の石材を駆使して庭に面白さを出し、木の成長を考えた植裁を行えば、薮にならずいつまでも飽きのこない庭になる。
そして、このような庭こそ秋田にしかない、秋田らしい庭になると信じていました。
しかし、現実的にお客様の庭をそのように変えるには、剪定だけでも今までの3倍の予算が掛ること、従来のやり方に慣れたお客様の好みや職人の技術力などの問題があり、すぐには出来ないことでした。
そんな中でも、少しずつですが実験的に透かし剪定をさせてもらいましたが、当初はお客様に「松が、坊主頭になってしまった」などと言われ、それっきりお付き合いの無くなってしまうこともありました。
それでも、ごく一部のお客様には、「京都に行って庭を見て来たら、君の言う通りだったよ」と言って下さる方も居り、大変嬉しかったのを覚えています。
また当時は、庭に山の木を使うことなどが無く、庭に裏山と同じ雑木を数本植えることで一体感を出し、背景を庭に取り込む借景の手法を取ろうとしても、「なぜ山にたくさんある珍しくもない木をわざわざ植えるのだ」ということになり、計画を断念したこともあり、始めからうまくはいきませんでした。
それがある時、お客様から茶庭のご注文を頂き、茶道は習ってはいたものの、まだ本格的な茶庭の施工に携わったことの無かった私は、再度東京の師匠のもとへ勉強に出掛け、茶室のある現場に行っては教わり、休みの日には師匠のお客様の茶道の先生のもとへ稽古に出向いたり、都内を始め京都の茶庭や美術館を見て回ったり、茶庭づけの日々を過ごす絶好の機会に恵まれました。
茶庭は、茶室に至るまでの道すがらの庭です。茶室に入る前に手や口を清めるための蹲踞(つくばい)や、雨天、草履が濡れないようにと考案された飛石や延段(のべだん)、狭い庭を仕切ったり遮蔽したりする竹垣、夜の茶会の照明となる灯ろうなど、現代の日本庭園を構成する要素の原点でもあります。
既製品を用いずに廃物を見立てて使う発想の自由さや物を大切にする心、「市中の山居」と言われるように、山の木を植え、地産の石を使って街の中に人の作為を感じさせない野山の風情を表現する庭のつくり方は、私の考える「雪国の環境に適した庭」にぴったりで、やっと自分の理想とする庭を見つけた思いでした。
例えるなら茶庭は、藤里町に庭を作るなら、藤里町に自生する樹を植え、山や川の石、家の裏に転がっている石などで飛石や延段を作り、使わなくなった古い餅つき臼などを蹲踞の水鉢に見立てて使うという考え方なのです。
実際に、私もお客様の庭を作らせて頂く時には、家の裏に転がっている石や土から出てきた石で延段や石積みを作り、昔の家の土台石や漬物石、藁打ち石などで飛石を打ち、使わなくなった火鉢を蹲踞の水鉢に見立てたりすることがよくあります。
このように、茶道の精神での庭づくりは、高価な新しい物を揃えなくても、何でもない石や古い物を今までと違う使い方をすることで再生出来る力があり、そのような点にも強く惹かれるものがありました。
そんなわけで、これまで茶庭を中心に大小60作ほどの庭を作らせて頂きましたが、時代が本物志向になってきたこともあるのでしょうか、段々と一般のお客様のご理解も得られるようになってきました。
現在では、茶庭では流派による約束ごとを守り、作為を見せないように作りますが、一般住宅の庭では茶庭と同じ石材を用いても、自由にデザインし、小鳥を呼んで虫を食べてもらえるように蹲踞の代わりにバードバスを置き、実のなる山の木を植え、落葉は土に返して肥料にしてやるなど、自然の生態系に習った、より自然な庭づくりを行っています。
また、近年のガーデニングブームにより、お客様のご要望も多様化してきました。最近は、新しい試みとして地産の石材で、コニファーを使ったロックガーデンや石張りのテラス、レンガと組み合わせたアプローチなどにも取り組み、私どもが庭の骨組みを作り、お客様に自由に花を植えて頂くようなスタイルの庭も増えてきました。
呼び方は洋風であっても作る技術には変わりありません。
今後も、和洋を意識せず「自然式」の考え方で地域性のある庭づくり、庭師の一人よがりにならないよう、お客様に楽しんで頂ける庭づくりに取り組んでいきたいと考えています。