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街路樹のその後とこれから

 

新緑の頃も過ぎ、木陰が恋しくなる今日この頃ですが、あの街路樹たちは今どうしているでしょうか。
この4月、市長さんに街の街路樹のあり方を提言し、市内に美しい剪定の施された街路樹のモデル地区を作らせてほしいとお願いしました。

さてでは候補地を探そうと、改めて市内の街路樹を見渡してみると、イチョウだけでも、ブツ切りされたもの、ブツ切りされて数年経ったもの、まだ手を入れられていないものなど、同じ樹種でも様々な状態のものがあります。
これら状態の違うもの、街路の形態の違うもの、1本1本の枝張りや高さの違うものに画一的な手入れをすることはできないと思います。
さて、ではどんなふうに、今ある街路樹を美しい姿に保ち、街並に残していけるのか、状態の悪くなった木を回復させていくにはどうしたらいいのか、ここでは、街で見かけたいろんな街路樹たちの今を見ながら、これからのことを考えてみたいと思います。

あくまで私見ですので、皆様のご意見、好例等のご紹介をいただけると幸いです。

※落葉状態の写真は1〜3月に撮影のもの、葉のある状態のものは6月中に撮影のものです。

 

 

 

強剪定のその後

街で見かけた街路樹たちの今・強剪定1

街で見かけた街路樹たちの今・強剪定2

街で見かけた街路樹たちの今・強剪定3

街で見かけた街路樹たちの今・強剪定4

街で見かけた街路樹たちの今・強剪定5

 

現在の能代市では、イチョウもプラタナスも、ほとんどがこのような剪定をされています。さて、では、このように剪定された木は、芽を出すとどうなるのでしょうか。この木たちの現在を見てみます。

 

強剪定後の街路樹・1

強剪定後の街路樹・2

今冬剪定された能代市街のイチョウ

今冬剪定された能代市街のイチョウ

 

芽出しの時期は樹種や気候でそれぞれ違いますが、当地では通常、5月中には新芽が出揃います。しかし、ブツ切りされた樹木はほとんどの芽を切り取られているため、不定芽(非常事態の時のために隠れている芽)の発生を待って、2,3週間遅れで出てきます。不定芽は一斉に吹き出るように出るので、出てきた枝葉は団子のような形になります。
わずかに枝を残した木では、既に新芽も固まって落ち着いた緑色の葉と、今出てきた黄緑色の新芽で、ゴチャゴチャしています。

 

 

 

強剪定された木を直すには

 

強剪定のイチョウを直す・1

強剪定のイチョウを直す・2

強剪定のイチョウを直す・3

 

今冬、私が透かし剪定したイチョウです。ブツ切り後数年経過した木で、徒長枝が絡み合い、芯が乱立している状態でした。芯を止めず、枝先を切り詰めず、枝張りを残す剪定を行いました。

 

 

強剪定された木を直す・透かし剪定後のイチョウ1

強剪定された木を直す・透かし剪定後のイチョウ2

強剪定された木を直す・透かし剪定後のイチョウ3

 

真ん中の写真のイチョウは、他の樹木に比べいい枝が残っていましたが、いざ葉が出揃ってみると、木陰を作るためにはもう少し葉の量が欲しいところです。冬期の落葉期の剪定は、枝葉の無い分、剪定する枝の見分けはしやすいのですが、葉の無い時に葉のある状態を想定しなければならないので、感覚的に難しいものがあります。夏期の活動期に太枝で切ると木が傷みます。太枝で抜くのは冬期でなければ出来ません。ブツ切りされて絡み合った枝の木は、枝抜きの見極めがさらに難しくなります。

 

ぶつ切り数年後に透かしに直したイチョウ

ぶつ切り数年後に透かしに直したイチョウ

ぶつ切り数年後に透かしに直したイチョウの葉の出た様子

左写真の葉の出た様子

 

同じ位の大きさの自然樹形のイチョウ

同じ位の大きさの自然樹形のイチョウ

同じ位の大きさの自然樹形のイチョウの葉の出た様子

左写真の葉の出た様子

同じ並びのイチョウでは、枝が下がっているものもあります。比較で、前述のイチョウと自然樹形のイチョウも見てみます。ブツ切り後に出た枝(徒長枝)は枝自体が弱く、これまで絡み合っていた枝を外すと、新芽の頃はいいのですが、葉が固まる頃になると葉と水分の重みで下がります。自然樹形のイチョウは斜め上方に枝を伸ばしますが、このイチョウでは、少し斜めの枝は水平ぐらいに、水平に残した枝はかなり下がっていました。これは、これまで枝同士が絡み合っていたことでお互いの枝を支えあっていたということで、支えを無くした枝が重みで下がったということです。今回の剪定は、幹吹きや絡み、立ち枝を外しただけですが、出てきた不定芽の量、現在の枝葉の濃さを見ると、もう少し枝を残した方がよかったのではないかと思います。が、あの、乱れに乱れ、左右上下に湾曲して絡み合った枝をどう残していくか、市民の落葉の苦情、ブツ切りを望む声を一身に受ける中で枝を残していくことは本当に大変です。ブツ切りを直すのは本当に難しい。透かしでも、1度に大きくやるのではなく、段階的な剪定が必要だと思います。それを、単発の、誰がやるかわからない役所仕事で出来るのか。難しいです。
2,3年掛けてこの木を観察していきます。下がった枝は雨を受けるとさらに下がります。役所にはこちらから現状を報告し、下がって通行の支障となる枝を剪定させてもらいました。

 

 

 

自然樹形の樹木を剪定するに

自然樹形の樹木

剪定が手つかずだった木

まだ手の入れられていない木と、手つかずだった木を今年剪定したものとの対比です。この木は元々こんな姿をしていました。

 

透かし剪定と強剪定の比較1

透かし剪定と強剪定の比較2

強剪定で枝葉が多く出た木

 

上の写真の木の並びには、まだ手付かずのイチョウもあります。その向かいは、3年前にブツ切りされて伸びたイチョウです。ブツ切り後に出た不定芽はやがて徒長し、1年目はコンパクトに団子のような形をしていますが、樹冠は2,3年で前の状態より大きくなります。手を入れ過ぎた木と入れてない木とでは、枝葉の量にこれほどの差が出ます。

 

 

切っては暴れるの繰り返しの悪循環の木・1

切っては暴れるの繰り返しの悪循環の木・2

市内には、通行の支障となる下枝だけを払った箇所もありました。隣は、木の内部を下から見たものです。木は葉で光合成して養分を作って生きています。これまでの葉の量で生きていた木が、その葉を全て取られたらどうなるか、全て取らないまでも、切り過ぎたらどうなるか、切っては伸びる、切っては暴れるの繰り返しの悪循環に陥ります。木は切られなければ徒長することも無く、樹形も乱さず枝葉もそれほど出しません。サルスベリなどは良く、花付きを良くするためとブツ切りにしますが、自然樹形でも花が咲きますし、自然形にしていた方が木にストレスが掛からず、樹形を乱しません。不定芽の発生、徒長枝を抑えるためにも、下枝と幹吹き、枯枝を取るぐらいにしておいた方が、木にストレスを与えず、美観的にも美しく、経済的にもいいのではないかと思います。落葉の苦情の問題を除けばですが・・

 

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夏期剪定されたケヤキ

昨年8月

夏期剪定一月後、新芽が柳のように垂れ下がったケヤキ

現在

昨年、7月に夏期剪定されたケヤキです。住宅の近くの木だけ剪定されました。一月後、新芽が柳のように垂れ下がりました。

 

夏期剪定一月後、新芽が柳のように垂れ下がったケヤキ・2

枝が徒長し、下がり、荒れたケヤキ

今年は剪定されていませんが、やはり今年も枝は徒長し、下がり、荒れます。

 

 

 

 

5、6年前まで透かされていてその後手付かずのケヤキ・1

5、6年前まで透かされていてその後手付かずのケヤキ・2

5、6年前まで透かされていてその後手付かずのケヤキ・3

 

同じ街路にある、昨年難を逃れたケヤキです。5,6年前まで透かされていてその後手付かずですが、いい木陰を作ってくれます。木と木の間の間隔は、木の枝先と枝先が当たるまでは伸ばしてもいいのではないかと思います。植える時に間隔を空けるということは、ここまでなら木を伸ばしてもいいという印なのではないでしょうか。そして、枝先と枝先が当たるぐらいの枝張りが出た時の高さが、この街路樹が目標とする高さで、この葉張りと高さが、この街路の景観目標ということになるのではないでしょうか。植栽設計をした人に聞いてみたいところです。

 

 

強剪定され不定芽が発生したケヤキ・1

強剪定され不定芽が発生したケヤキ・2

昨夏強剪定された木は、今年も不定芽が発生しました。隣の手を入れてない木はそのままです。下手に手を入れなければ樹形を乱す枝は出ません。剪定の度合いと不定芽のバランス、今の苦情で行う剪定とその後の枝の伸長。透かしでも、時期と木の状態によって剪定の程度を変えなければなりません。落葉樹の剪定は難しいです。

 

 

 

街並に樹木をどう存在させていくか

 

公園のイチョウ・1

公園のイチョウ・2

公園のイチョウ・3

 

公園のイチョウです。伸び伸びと枝を伸ばし、気持ちのいい木陰を作ってくれています。この公園のイチョウ同士の間隔と同じぐらいの距離の所にある街路樹のイチョウはブツ切りです。周りに住宅はありませんので、苦情もさほどではないと思います。街路樹は道路の付属物とのこと、公園とは管理する課も違うのかもしれません。県道、市道でも管理する所は違うのでしょう。でも、同じ緑、同じ市内です。こんなに近い距離で公園樹と街路樹とに分けなくても、こんな所では、公園との調和を考えて、街路樹も公園と捉えてもいいのではないかと思います。公園には歩いて出かける人もいることでしょう。
その道にも、木陰は欲しいのではないかと思います。暑い真夏、日傘を差さずに公園に行けたらどんなに気持ちがいいでしょう。市内全体を公園と捉えることが出来たら素晴らしいのではないかと思います。そんな街づくりが出来たら素敵ですね。

 

伐採のような剪定を免れたプラタナス

ブツ切りされたプラタナス

左写真は、この公園のはずれにあるプラタナスです。公園内にあれば伐採のような剪定を免れ、電線に支障のある所だけが剪定されるようです。これは電気屋さんの仕事だと思いますが、われわれ造園業者より上手だと思います。隣は、同じ市内の他の公園のプラタナスです。支障のない所では枝張りを残してもいいと思うのですが。

 

 

踏み切り待ちの人が木陰で待つ街路の風景

歩道の木陰

踏み切り待ちの人が木陰で待っていました。右写真は裏側から見たものです。このぐらいの木陰があればかなり暑さも和らぎます。

 

 

 

能代市内の自然樹形の街路樹たち・1

能代市内の自然樹形の街路樹たち・2

能代市内の自然樹形の街路樹たち・3

 

能代市内に残る自然樹形の街路樹たちです。残して欲しい景観、素晴らしい木陰です。この木たちをどう美しく、人の暮らしとバランスよく共存させていくか、『水と緑の街 能代』の課題です。

 

 

 

あとがき

 

駐車場でも木陰は人気の駐車スペース

 

人は花と木陰に集まります。
花が咲けば人は喜び、涼しさを求めて木陰に隠れる。
公園などで、駐車場もベンチも木陰から埋まっていくのを見るのは面白いものです。
人は、無意識のうちに樹木に恩恵を求めています。

こんなにも樹木から恩恵を受けているのに、そんな恩恵を求めて木を植えるのに、花や落葉が散ればもう邪魔者のようです。
メディアなども、植樹などは取り上げますが、その木のその後がどうなっているかを報道することは稀です。
どうしたら樹木から得られる喜びや癒し、恩恵を、人の心に持続させることが出来るのか、それが出来れば、この街に緑の文化を定着させることが出来るのではないかと思います。

先日、地元紙のコラムに「樹木はどう見ているのだろう 」というタイトルで街路樹のことが書かれていていました(北羽新報6月21日 「複眼鏡」より)。
市民の意識や世論を高めなければ、この問題は解決しません。
そんな意味でもメディアが街の緑について問題を投げ掛けるのは価値のあることだと思っています。

今回、市の街路樹を観察して周るうち、街にどんな形で街路樹を残していけばいいのかという、自分なりの考えが持てました。
同時に、植木屋としての自分、植木屋の原点を振り返ることも出来ました。
私自身がまだまだ未熟なので、これからまた考えが変わるかもしれませんが、いろんな方々のご意見を聞くことで、今後に役立てていけたらと思っています。

 

大勢の市民が憩える公園の大きな木の木陰

 

修行時代の師匠に教えていただいたことの一つに「松は松らしく紅葉は紅葉らしく」という言葉があります。
そのまま解釈すると、「松は松らしく剪定し、紅葉は紅葉らしく手を入れてあげなさい。」ということですが、実際の仕事でこれを実行するのは本当に難しいことです。
師匠には、「手入れとは、『この木、本当に手入れしたのか?』と思わせるほど、一見どこで切ったのかわからないけれど、よく見ると木の下には枝がたくさん落ちている。見上げれば木の中には柔らかな光が差し込み、視線が枝葉を抜ける。そんなものだ。」とも教えていただきました。
私の街路樹の手入れはそうなっていただろうかと思うと、「街路樹だから。公共仕事だから。ブツ切りされた木だから仕方ない。」と言い訳したくなる私。 師匠に顔向けできません(笑)。

「松は松らしく紅葉は紅葉らしく」、これは、一歩進めると、「松は松らしさを活かせる所に植えてあげなさい。」ということで、その木の特性を活かし、庭の中での役割に合った手入れや植栽をしてあげるということになります。
街路樹の役割、役割に合った手入れ、役割を活かす植栽計画、これは庭づくりも街づくりも、根本は同じですね。
分離発注、その時だけの単発の公共工事の中で、樹木と人が共生していく将来を考え、次に繋げていく仕事、ブツ切りで傷んだ木を段階的に手入れしていくにはどうしていったらいいのか。
樹木の恩恵よりも落葉の苦情の多い中で、どうやったら街路樹を木らしく街に存在させ、木陰のできる爽やかな街並を作れるのか、街の緑と里山、白神山地をつなぐことができるのか、問題は山積み、そんな中でもがき、葛藤する毎日です。

植木屋の仕事は、悩み、苦しみ、考えること。
まだまだ悩みは続きそうですが(笑)、これが生きている証です。
田舎植木屋にどこまで出来るのか、出来るところでがんばっていきたいと思っています。

2007年 7月1日

 

参考リンク

・『街路樹を考えるページ』新樹造園HP(富山県)

・『落葉樹の剪定』同

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