「草取りの小道と雨水流れの庭」

 

草取りの小道と雨水流れの庭

2007年11月作庭 能代市

 

この庭は、庭好きのご主人が自ら石を組み木を植え、剪定などの手入れもご夫婦お二人でされてきたという、ご家族手作りの庭です。
庭は、そこに住む家族の嗜好や生活スタイルで変わるものです。作庭後数十年が経過し、この庭もそんな時を迎えたようです。
ご家族が愛着のある木や石を活かしながら、今の暮らしぶりに合わせた庭に作り替えることになりました。

 

 

草取りの小道

 

施工前

 

施工前

 

 

施工後

施工後

 

しばらく手が入っていなかったという庭は、木と草花が混在し、足の踏み場も無いほど混み合っていました。歩く隙間が無いと、庭に入るのが億劫になるものです。庭は人と植物が触れ合う所ですが、あまり距離が近過ぎると、逆にストレスに感じることもあります。人と植物の間に適度な距離を保ち、お互いが気持ちよく過ごすためのものが、庭の中の道。散策しながらも、手を伸ばせば草を取れる。そんな、草取りの小道を作ることにしました。

 

草取りの小道

 

通路と庭は土留めの縁石で仕切られていました。この石をまたがないと庭に入れないので、所々の石を外し、通路とフラットな道を作りました。庭の草取りはおばあさんの仕事です。30センチの段差はお年寄りには厳しい高さ、こんなことも、庭に入る気持ちを萎えさせます。庭にもバリアフリーは必要ですね。

 

三箇所の導入路はそれぞれ違う素材に

 

庭への導入路は三箇所ありますが、それぞれ違う素材を使い、道の形も変えています。足元が面白いと、庭に入るのが楽しくなります。
こちらは、既存の石を利用してランダムに畳みました。

 

森の小道の雰囲気

 

庭の奥には、マユミとナツハゼ、ウメモドキが隠れていました。小道沿いにこの雑木たちを植えて、森の小道の雰囲気を作ります。紅葉や実のきれいな木々ばかりですが、長い間、常緑樹の間に挟まれていたせいか、あまりよくなれずにいました。人と植物の間にも適度な距離が必要なように、植物同士の間にも適度な空間が必要。人間関係に相性があるように、木々や草花にも相性の合う取り合わせというものがあります。そんなことを考えながら移植していきました。

 

小道の素材は地元の土と砂利

 

小道の素材は地元の土と砂利です。枯池に敷いてあった砂利をふるい、小さい砂利を選って土と混ぜ、左官の「洗い出し」という技法で作りました。小砂利は、骨材として強度を高めるための意味と、景色として入れてあります。小砂利を均等に一面に浮き立たせるやり方もありますが、茶室の三和土(たたき)などのように、表面の砂利はわずかにして、微妙なバランスで散らしたほうが、作意の無い自然な風合いを楽しめます。せっかくなので、庭から出てきたレンガや、解体した池の縁石も入れてみました。

 

洗い出し

 

洗い出す作業は暗くなってからになりましたが、黄色い土の中から浮き出てくる小砂利に、皆から「面白れぇー!」という歓声が上がりました。そうです。庭仕事は面白いのです(笑)。容易に出来る仕事には、思いも愛着も湧きません。土仕事は手間が掛かりますが、その苦労が報われる瞬間です。

 

土の小道は、分岐点で石張りへ変わる

 

土の小道は、分岐点で石張りへと変わります。この石は私もよく使う白神山系の石ですが、既存の石に少し補充して、「あられこぼし」の要領でランダムに張っていきました。ここは、庭のあちこちから石が出てきます。なんと有り難いことでしょう。

 

施工前

 

施工前

 

 

施工後

 

施工後

 

軒下にも草花が植わり、枯池の境目となる狭い雨落ち部分が庭の通路になっていました。枯池部分は、冬期、屋根からの落雪でいっぱいになります。夏は夏で屋根の雨水が溜まるので花も育たず、やむなく砂利を敷いて池にしたとのこと。この部分は住宅と庭が接続する重要な所です。庭の中の通路の確保、雨水の排水、家との繋ぎ、庭の景趣等、実用と景観を兼ね備えたものを考えました。

 

古い土管を水鉢に見立てる

 

玄関屋根の雨樋の排水処理として流れを作りました。景色としても楽しめるように、古い土管を水鉢に見立て、外した土留めの石を利用して背面を囲んでいます。普段は枯れ流れですが、雨が降った時だけ水が流れます。

 

県内産の十和田石の犬走り

 

花の植えられていた軒下は、県内産の十和田石を敷いて犬走りにしました。これで土の跳ね上がりを防げます。犬走りとテラスは同じ素材で統一しましたが、両者に同じ石を使うことで家と庭に一体感が出てきて、狭い空間を広く見せることができます。ここは縁側に接続する場所。ご友人やお孫さんが来た時は、ベンチを置けばお茶も楽しめます。

 

十和田石のテラス

 

雨落ちの砂利は、枯池に敷いていたものを再利用し、テラスの高さギリギリまで高くしました。通常、犬走りから繋がる園路は一段下げますが、ここでは歩行のしやすさを考えてテラスとフラットにしたので、雨落ち部分とかなりの段差が生じました。段差は石の厚みを感じさせ、庭に変化をもたらしてくれますが、お年寄りには見た目も危険に感じるものです。

 

テラスの中のポイントの石張り

 

テラスの中にはポイント的に石張りも織り交ぜています。流れの向こう側にも同じ石のあられこぼしがあり、土の小道の終点もこの石で終わっています。角形の石張りからランダムな石張りへと形を変えながらも、道の全てにこの石を使うことで庭に統一感を出しています。

 

石臼

 

こちらは農家です。古い石臼を一つ見つけました。石臼は二つで一つ。もう一個あるはずと探したところ、物置で眠っていました。古い物を庭に活かすことで家族の心と時代を繋ぐというのが、私の庭づくりのポリシーでもありますが、こんな形で古材を使ってあげると、庭の中に昔の人の暮らしが生きてきます。模様の面白さは、石張りや流れも引き立ててくれますね。丸い形を活かして沢飛びにしてもいいのですが、ここでは、歩行の安全のために、流れの護岸に組み入れました。

 

護岸に添えたセキショウ、アヤメ、ヤブランなど

 

護岸が石ばかりだと硬い感じがします。ここにはアオキやセキショウ、アヤメ、ヤブランなど既存の下草が豊富だったので、護岸に添えて植えてあげました。水際に線のきれいな下草を植えると、流れがより流れらしく見えてきます。

 

流れは、途中でご主人が組んだ滝と合流

 

流れは、途中でご主人が組んだ滝と合流します。この滝はそのまま活かしました。本来、滝が流れの水源になるのが自然なのですが、この庭は表面勾配がこの滝のほうに向かって付いていて、屋根の雨水もこの奥にある側溝へと流れていくようになっていました。滝と流れの関係をどうするかでひとしきり悩みましたが、自然の流れでも、小滝と合流しているところはあるということで、そんな風景をイメージして流れを構成していきました。

 

 

手入れ

ご家族が一番心配されていたのが、大きくなったイトヒバやケヤキ、モミジの落ち葉でした。無理に刈り込んで小さくしようとすればするほど木は樹形を乱し、ますます大きくなろうとします。この庭に対して木が大き過ぎるというわけではありませんでしたので、無理に高さを抑えることよりも、枝葉や樹木同士の間に適度な空間を作る透かし剪定をお勧めしました。枯枝枯葉を全て外して透かしに直すと、幹や枝の線がきれいに出てきます。下枝を外し、足元の部分を出してあげたら、庭がより広く見えてきました。

 

手入れ前

 

手入れ前

 

 

手入れ後

 

手入れ後

 

 

手入れ前

 

手入れ前

 

 

手入れ後

 

手入れ後

 

 

→作庭集

 

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