里山の樹木に抱かれて暮らす庭

 

里山の樹木に抱かれて暮らす庭

能代市N様邸  2008年4月施工

 

ご家族3人が暮らす新築住宅の庭です。ご依頼のキーワードは、「自然素材」と「森の中の家」。

今回はこの二つのことにこだわり、一番身近な「森」である里山の植生を参考に、故郷の自然素材を使い、土地の気候風土に適した庭をつくることをご提案しました。

里山は、昔から土地の人々に親しまれ、生活の中で活かされてきた山ですが、現代的な新築住宅でありながらも、故郷の昔の生活が偲ばれるような、どこか懐かしくてのどかな雰囲気が出せればと思いました。

山の木の作り出す雰囲気や空気感を意識した庭ですが、そんな中でも、ご家族が暮らしの中で楽しめるような趣向も考えてみました。

 

2月の初頭の現地調査

 

初めてこちらのお宅に伺ったのは2月の初頭でした。雪国の庭で一番頭を使うのは雪害対策。実際に落雪や除雪の状況を見ておかなければ庭の設計は出来ません。ここは平野部ですが3kmも行けば海岸に出ますので、冬は寒潮風が吹きつけます。山間部より積雪量は少ないものの、庭の中の雪の様子は風の強さや風向きなどでも変わりますから、どの部分にどのぐらいの雪が盛り上がるかなど、そんな状態も見ておきます。

 

春の現地調査

雪が融けて春になりました。雪の下に隠れていた構造物や土質を調査し、庭のイメージを練ります。駐車場から玄関までは枕木のアプローチが続いていました。今回はこの前庭部分と、主庭となるリビングの前を修景します。

 

田んぼと里山

 

ここは市内の住宅地ですが、500mも行くと田んぼがあり、その後ろには里山が広がっています。調査は現場ばかりではなく、周辺の家や山にどんな木が育っているかなども調べて、樹種選択の参考にします。この辺りの山では、落葉高木ではコナラやエゴ、ヤマザクラ、ケヤキなど、中木ではナツハゼ、ツリバナ、ガマズミ、クロモジ、ハシバミ、マユミなど、常緑低木ではアオキやユズリハなどが確認できました。里山は様々な樹種の混合林ですが、自然の状態で混合、共存している樹種同士は、庭に一緒に植えても共存していけます。山は庭づくりの一番のお手本です。

 

里山の調査

 

何度か山を下見した後、ご家族をこの山にお連れし、様々な樹種が混合、共生する里山の様子を見ていただきました。ここはご自宅から車で5分ほどですから、本当にすぐ近くです。落葉の道の感触を楽しまれ、「この落ち葉を持って帰りたい。」と言われるご主人の言葉を聞き、ご家族が心から安らげるような庭をつくってあげたいという思いが湧き上がりました。

 

木の掘り取り・1

木の掘り取り・2

 

自社の畑で、これから植える木を掘っています。この木達は、畑で自然に増えた雑木の実生などを移植して育てたものですが、雪囲いなどもしていないので、山に生える木のような自然味があります。この辺りには植木の生産地が無く、ほとんどが関東などの暖地からの仕入れになりますが、秋田に庭を作るならば、秋田の雪と寒さの中で生まれ育ったものを使ったほうが土地への順応も早いはず。暖かい畑ですくすくと育った植木で、厳しい冬を耐え抜く雪国の山の風情は出せません。土地に生える樹種を選び、土地で育った木を植えるというのが、今回の庭づくりの大きなポイントです。

 

完成・前庭

 

駐車場から見た前庭部分です。木立を抜けて家に帰るという雰囲気をつくりたいと思いました。「家を建ててから木を植えたのではなく、もともとあった森の中に家を建てたように。」というのがご主人のご希望でしたが、木が小さいと、どうしても取って付けたような感じは否めません。建物を包み込むような森の雰囲気を出すためにも、大きなヤマザクラを数本寄せ植えしました。ヤマザクラは縦に伸びる木なので、横幅の出るソメイヨシノなどとは違って、他の樹木との混合も出来ます。里山の植生が、そんな様子を証明してくれていますね。

 

完成・主庭

 

枕木のアプローチからは石畳の小道を通って主庭へと向かいます。主庭を見通せないように木を植えたので、その分、道が曲がりくねりました。石畳は石を散らかしながら仕事をするので場所を取ります。そんなこともあって、通常は木を植える前に道をつくりますが、今回は先に樹木を植えて雰囲気を確認、その後で道をつくりました。「もともとあった森の中に道が出来たように」ですが、木を傷めないように木を使いながらの石張りは、非常にやりづらかったです(笑)。

 

石張り施工中

 

石張り施工中です。キーワードの一つ、自然素材の庭づくりにこだわるために、セメントを使わない方法で石を畳んでいます。よく見かける鉄平石などはモルタルの上にペタッと置いていく感じですが、同じ石張りでも、このやり方は厚い石をガチッとかみ合わせるよう組んでいきます。チリ(地面から石の最上部までの高さ)を高くすれば重厚感が増しますが、岩盤が露頭しているように見せたかったので、ここではあえて低くしています。

 

西日を浴びて光る石畳

 

雨上がりに西日を浴びて光る石畳です。水を打つとまた違った表情を見せてくれます。周りに植わっている下草は山のスミレ。田んぼの土手なんかにもたくさん生えています。どこにでもあるものでも、けっこう景色になるものです。

 

山道の峠部分

 

山道の峠部分です。山中の雰囲気を出すために土を盛って庭に起伏をつくりました。石段にすると雰囲気が硬くなるように思い、地盤の勾配に合わせるように石を張っていきました。人が歩くためにつくった道というよりも、雨水で表土が流され、下の岩盤が出てきて道になったというようなイメージです。道には微妙に凸凹がありますが、一個一個の石も天平ではない面を上にして敷いています。この敷き方は現場でひらめいたものですが、この庭で一番難しかった部分です。

 

峠にはナツハゼを数本寄せ植え

 

峠にはナツハゼを数本寄せ植えしました。ちょうど、ケヤキとヤマザクラの間に挟まれた感じですが、ナツハゼはそれほど大きくなりませんので、周りの木とぶつかるということもありません。ケヤキもヤマザクラも大きくなる木ですが、ケヤキは芝生面へ、ヤマザクラは建物側からナツハゼにかぶさるようにと、成長してもお互いが接触しないような向きと距離を保つように植えています。

 

 

枝を伸ばすケヤキとヤマザクラ

 

上空に向かって枝を伸ばすケヤキとヤマザクラ。

 

森の中の小さな沢

 

森の中に小さな沢をつくりました。沢にかぶさるように植えた木が、山の雰囲気を盛り上げてくれます。山の木は高い方から低い方へと幹が曲がり、空間を求めて枝を伸ばしますが、そんな自然の法に習って木を植えていきました。

 

里山の植生の様子を再現

 

植栽は、同じ樹種を数本ずつ寄せたり混植したりしながら、里山の植生の様子を再現したいと思いました。植木畑で伸び伸びと育った木は四方へと枝を伸ばすので単植でも鑑賞できますが、ここに植えた木のほとんどは、片側にしか枝の無いものや上部にわずかしか枝の付いていないものばかりです。ここは森なので、1本の立派な木で見せるのではなく、1本1本の不完全な木が集まって一つの森を形作っているように見せたいと思いました。

 

沢を渡る枕木の橋

 

沢を渡る枕木の橋です。ツリバナのトンネルを潜るようにして渡っていきます。秋にはたくさんの赤い実がプランと吊り下がるでしょう。この橋は当初の設計にはありませんでしたが、現場で余った枕木を見ていて思い付いたものです。伝いに変化があると庭を歩くのが楽しくなりますが、橋のおかげで庭の景色も一段と面白くなり、沢筋を歩いているような雰囲気が出たのではないかと思います。

 

沢が蛇行する箇所に置いた水鉢

 

沢が蛇行する箇所に水鉢を置き、庭のポイントにしました。これは以前に農家の方から譲り受けていた、割れた石臼です。ここは里山の木を使った庭ですが、里山はそこに住む人々の暮らしと共にあるもの。そんな生活の中で使われていた道具を見立て、庭に使いました。この形、この割れ模様は、世界でたった一つしかありません。筧は、この庭にも植えてあるハシバミの幹をくりぬいたものです。

 

山道の園路からは飛石で川に降りられる

 

山道の園路からは飛石で川に降りられるようにしました。水は子供の冒険心をくすぐります。子供が遊ぶ姿を見るのは大人も楽しいもの。そして、小鳥も楽しい(笑)。山の木は鳥を呼びますが、ここでは、遊びに来た小鳥も水浴びしていきます。水があると、どうしてこんなにも気持ちが安らぐのでしょう。木々に囲まれた中の水はまた格別です。人は大昔、森の中で暮らしていましたが、樹木と水のある風景は、いつまで経っても人間の心の中の原風景なのかもしれません。

 

 

玄関からの景色

 

玄関からの景色です。ここからも、飛石で山道に行けます。

 

 

山道を抜けると芝生面が広がる

 

山道を抜けると芝生面が広がります。実はこの芝張りは、こちらのご主人に頑張っていただきました。石張りの際など、芝生を切って合わせていかなくてはなりませんから大変だったと思います。苔山との境の曲線具合も絶妙。口頭で張り方を説明しただけなのに、良くぞここまできれいに張られたものです。この苔と芝の間の部分は、落ち葉溜まりになる予定です。

 

庭の奥には、ベンチと石張りのテラスがある

 

庭の奥には、ベンチと石張りのテラスを設けました。大きなクロモジが木陰を作ってくれています。背後には小さなコナラの疎林をつくりましたが、ここには更新されて数年経った里山の様子を現してみました。クロモジとコナラではコナラの方が大きくなります。今はクロモジのほうが背が高いですが、コナラが成長するにしたがい、やがて追い越す時が来るでしょう。そんなことも想定して植栽しています。

 

庭の仕切りとして積んだ薪

 

玄関前には、庭の仕切りとして、ヤマザクラやケヤキ、コナラなどの薪を積みました。ここは里山の木ばかりを植えた庭ですから、山の更新で切り出された木が薪となって、ここに積まれているという物語です。ここは屋根から雪が落ちる所なのと、お子さんが触っても崩れないように、曲がった幹で両側から押さえ、フジの蔓で結束しています。ヤマザクラも落雪点ギリギリの所に植えてありますが、落ちる雪だけでなく、落ちて溜まる雪のことも考えなくてはいけないので、ここには下枝の無い高木を使っています。

 

ヤマザクラの足元には里山で見かける野草

 

ヤマザクラの足元にはイカリソウやショウジョウバカマ、ギボウシ、ヒトリシズカなどの里山で見かける野草がありますが、これも雪害対策です。下草に潅木を使うと雪囲いが必要になりますので、冬は地上部が枯れてしまう下草を選んでいます。

 

リビング前のデッキからの景

 

リビング前のデッキからの景です。ケヤキとハシバミの枝が芝生面に向かって伸び伸びと伸びるように植えています。枝が片側にしかない木なので、隣地やヤマザクラの方にはあまり伸びません。背景は、目隠しを兼ねてアオキを郡植しました。この庭の常緑樹は、このアオキとユズリハだけです。当地のアオキは大きくても1mぐらいにしかなりませんので、目隠しの役目を果たすためにも、盛り土して高さを出しています。盛り土することで、山の斜面の雰囲気も出てきます。

 

西日を浴びて出来る樹木の陰の線

 

午後からは西日になりますが、西日を浴びて出来る樹木の陰の線がきれいです。庭には、花や紅葉、樹形の他にも、こんな楽しみ方もあります。もう少し葉が茂ってくれば、心地よい木陰と木漏れ日が出来ることでしょう。

 

夕景

 

夕景です。夕日の方角には日本海があります。自然味豊かな山の木の庭には、お日さまがよく似合いますね。雨の日にはしっとりとした落ち着いた風情を、晴れた日には木漏れ日と木陰を。土地の気候風土に合う庭は、四季や天候によって様々な顔を見せます。

 

 

あとがき

樹木の名札

 

後日点検に伺うと、庭の木の枝に樹木の名札が付いていました。きっと、ご両親がお子さんのために付けてあげたのでしょう。

この庭には12種類の樹木があり、山野草を含めると20種類ほどの植物があります。お父さんやお母さんが一生懸命札を作っている姿を想像したら、なんだかほのぼのとしてきました。

「落ち葉を持って帰りたい。」と言われたご主人の言葉が今も心に残っています。

自然との共生、人と樹木との共生とは、芽が出て花が咲き、実がなって葉が落ちるという、樹木の自然の営みをそのまま受け入れることではないかと思います。

ここの庭も、優しいご家族のもと、そんな自然の営みを繰り返しながら、伸び伸びと成長していくことでしょう。

自然素材で作る庭は、いつかは土に還るもの。朽ちていく果かなさや蘇る嬉しさを繰り返しながら、ここにしかない庭の味となっていくことを願っています。

 

 

→作庭集

 

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