三日月が舞い降りる庭

 

三日月が舞い降りる庭

 

これまで菜園として使っていた場所を、既存の物を利用して作り替えることになりました。今回の仕事は庭の骨組づくりまで。後は、ご家族の皆さんに、好きな花や野菜を植えてもらいます。有り難いことに、ご家族には全面的にお任せいただいたので、図面は描かずにすみました。部屋で書き物をするのが苦手な私には大助かりです(笑)。その浮いた手間の分を、実際の庭で倍以上にお返しします。現場に立った時にどんな閃きが生まれてくるのか、自分でも楽しみです。

 

施工前

 

敷地がかなり広いので、ポイントをどこにするか、ひとしきり悩んでいます。使える材料は、ミカゲの飛石とカラー平板、鳥海石2つ、火鉢、碾臼、木臼、砂利、流木、ベンチ、カエデ、サツキ、ハーブ、シバザクラ、シャガなど。畑なので、ネギやイチゴもあります。この素材たちを活かし、菜園と庭園を兼ねた、鑑賞と実用の庭をつくります。

 

石積の工事

 

敷地は、奥に向かってだんだん低くなりますが、手前と奥とでは、最大で1mの高低差があります。この高低さを活かせば面白い庭になるのではないかと、庭の真ん中辺を平らに整地し、すき取った土を手前に盛って、そこに石積を設けることにしました。
モルタルを使わずに積んでいくので、厚い石を使ってガッチリと積んでいきます。おかあさんは、土に埋まっていた砂利を洗ってくれています。これも、後で活かします。

 

山道

 

ここは、登る庭ではなく下る庭。山道を下っていくような雰囲気を出すために、山石でランダムに縁取って道をつくりました。道の中には、石ころや小砂利も叩き込んでいます。道幅を広くしたり狭くしたり、山中の露頭岩のように道の中にも石を据えたり、いろいろ工夫してみました。道の周りには、これからご家族が花を植えます。ただ下るのではなく、楽しみながら下れる道です

 

「白神の小道」

 

土の道が石畳の道へと変わると、庭への期待感が高まります。庭は、造作と造作の繋ぎが大切。違和感無く見せるために、石畳は縁石と同質の石を使い、自然に移り変わるようにしています。ご家族が希望されたのは「白神の小道」でした。そんな雰囲気、出ているでしょうか。

 

石畳の小道から白ミカゲの飛石へ

 

道の形はまたまた変わり、石畳の小道から白ミカゲの飛石へと変わります。実を言うと、普段は自然石の飛石を使っているので、この飛石を使うのは初めてでした。自然風な庭づくりを心がけていますが、この飛石には自然風な庭は合いません。でもテーマは白神の小道。どんなふうに使ったらいいのか、ひとしきり悩んだ末、この丸い形を活かし、デザイン的な使い方をしてみようと思いました。

 

カラー平板を並べたテラス

 

飛石は、カラー平板を並べたテラスへと続きます。ここがこの庭の縁側です。ベンチを置き、木臼をテーブルにして、ここでお茶を楽しめます。飛石とテラスの間には、イチゴやパセリ、ハーブなどを、下草として植えました。

 

涼しさと小鳥を呼ぶ水鉢

 

べンチに腰掛けて見るとこうなります。ここから見る景色が、この庭のメインです。石積を設けたおかげで庭に立体感が出てきました。石積は土地の起伏に合わせて、左に向かって低くなるようにしています。青い水鉢は火鉢ですが、暖を取るための物から、涼しさと小鳥を呼ぶ水鉢へと変わります。台石は、埋まっていた鳥海石。ひっくり返したら面白い形をしていたので、台石にすることにしました。この石の傾斜を伝いながら水が流れ落ちていきます。

 

地産の砂利の洗い出しに

 

掃除の手間を考え、水鉢周りは砂利敷きではなく、地産の砂利の洗い出しにしました。この庭のテーマは「三日月が舞い降りる庭」。黄色いバナナのようなモノは、実は三日月です。黄色い土を使い、台石の周りを三日月形に仕上げてみました。こんな造形を創ってみたのも、ミカゲの飛石からの発想です。

 

上から見た洗い出し

 

上から三日月を見てみます。三日月の中に白いものが三つ見えると思いますが、これはこちらのお孫さんが拾ってきた貝がらを埋め込んだものです。ここは海というより山の沢。山に海の貝があるというのも不自然ですね。貝は黄色い土の中にあります。そう、ここは、大昔は海だったのです。ということで、これは貝の化石、ということになりました(笑)。

 

三日月に絡む水鉢の前石は碾臼

 

三日月に絡む水鉢の前石は碾臼です。ミカゲの飛石と合わせると、丸い形が7つあります。夜空に浮かぶ7つの星と言えば? 形は違いますが、そんなイメージで作ってみました。こちらのお宅には小さなお子さんもいますが、大人でも子供でも楽しめる庭が理想です。庭に物語が出来ると、庭に入るのが楽しくなりますね。

 

筧は流木を利用

 

筧は、こちらにあった流木を利用しました。こちらのおかあさんが浜で拾ってきたものです。うねるようなラインが面白いです。

 

もう一つの石積

 

土留めの石積の後ろにもう一つ石積が見えますが、さてこれはなんでしょうか。

 

石灯り

石灯り遠景

 

答えは・・・石灯りでした。中にライトが入っているのが見えるでしょうか。庭にソーラーの庭園灯があったので、試しに石で囲ってみました。夕暮れ時になるとひとりでに点灯しています。灯篭は灯りが灯ると始めからわかっていますが、光るはずの無い所が光るのは、ちょっとした驚きです。安価な物でも、工夫次第で庭の楽しみに変わります。

 

石灯り(庭園灯)・2

 

庭園灯はもう一つありました。今度は、割れた石の間に挟めて見ました。ここは山道の途中です。足元を照らすのにちょうどいい灯りになりました。

 

天の川を模した五色砂利

 

五色砂利は、洗い出しと土との境に使い、ラインを活かして天の川のように見せました。この中には貝がらもたくさん入っています。沢から流れてきた水は、やがて大海に注ぎます。そう、ここは海です(笑)。

 

 

庭のお披露目

 

待ちに待った庭がようやく完成。いよいよ、ご友人の方々にもお披露目です。「これ何?池?枯山水?バナナ?」いろんな声が聞こえてきます。庭を肴に、ここで楽しくお茶(お酒)を飲んでいただけたら、庭師冥利に尽きます。庭は自由です。庭に決まりはありません。見る人の感覚で、いろんな楽しみ方をしてくれたら嬉しいですね。
さて、これで私達の仕事は終わりました。後は、ご家族にバトンタッチです。

 

 


 

・・・三日月の庭その後・・・

 

スギナも庭のにぎわい

スギナも庭のにぎわい

 

 

ツユクサや蛇イチゴ、シロツメクサ

ツユクサや蛇イチゴ、シロツメクサも。こんな様子もまた、よし

 

 

ブログ・紅の葉の木陰より 

 

「スギナも庭のにぎわい」 

 

→作庭集

 

 

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