「庭園研究室」

 

庭園研究室

作庭 2008年 1〜3月

 

ここは、福岡造園の研究室兼道場です。
新たな発想でモノを創る時には、質感やバランス、強度など、実際に形にしてみなければわからないものですが、素材の新たな使い道や工法を研究し、現場の庭づくりに活かすために、ここでいろんなことを試しています。室内は天候に左右されないので、スタッフがいつでも練習できる道場としても解放しています。
さて、中ではどんなことが行われているでしょうか。ちょっと覗いてみましょう。

 

 

倉庫(ビニールハウスです)の一角を利用

 

雪国の植木屋は冬は暇です。この期間を活かさない手はありません。でも外は雪。ということで、倉庫(ビニールハウスです)の一角を利用し、屋内で練習することを思い付きました。雪が降ってから準備するのは大変なので、降雪前に材料を運び込んでいたのですが、さて何をつくりましょう。庭はパーツで見るものではなく全体構成で見るもの。ただ庭の造作をつくるのではなく、それらを繋げ、一つの庭として完成させることにしました。

 

 

持ち込んだ素材は、これまで集めた川石や山石など

 

持ち込んだ素材は、これまで集めた川石や山石などです。今回は庭の園路を主体に勉強することにしたのですが、飛石や延段は茶庭で発生したもの。せっかくなので、席入り作法を学びながら、露地形式の庭をつくります。始めに、茶室と蹲踞、中門、腰掛の位置を決め、それらを繋ぐ導線を地面に描きました。写真は、蹲踞の背面囲いの石を積んでいるところです。

 

 

蹲踞

蹲踞が組み終わりました。露地は廃物利用の庭と言われますが、昨年、廃品となった織部灯籠の笠を利用して手水鉢をつくっていたので、今回はそれを使います。水鉢の右手が手燭石、左手が湯桶石。今回は裏千家流に組んでみました。背面の石積を少し高くすることで、より蹲踞の海を奥深く見せています。

 

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露地の蹲踞は飾りではなく使うもの

 

露地の蹲踞は飾りではなく使うもの。実際の露地づくりでは、ここでお施主さんに使い勝手を見てもらいます。座敷から見る飾りの蹲踞と茶事で使う蹲踞の違いに蹲踞の向きがありますが、先客が柄杓を使っている時、後ろで待つ次客に背を向けずに使えるように組んでいます。

 

 

外露地の腰掛から蹲踞までの飛石を打つ

 

外露地の腰掛から蹲踞までの飛石を打ちます。人間の足は右左と交互に出ますが、そんな歩き方に合わせて千鳥打ちにしていきます。ここはちょうど、主客が迎付をする中門部分になるので、それを想定して飛石を打っています。露地には飛石が付き物で、飛石の無い露地は考えられないぐらい当たり前のように作っていますが、そもそも、なぜ飛石は出来たのでしょう?一服の際、楽しくお茶を飲みながら、そんな問答もしていました。

 

 

飛石を打ったら、実際に歩いてみる

 

飛石を打ったら、実際に歩いてみます。お茶事は着物を着て行いますので、長靴を履いていても、気分は草履に袴。飛石の間隔も、着物を着て歩く歩幅を想定しています。ちなみにこの若いスタッフはまだ20代前半ですが、彼が最近袴を着たのは七五三の時だそうです。その時を思い出して歩いてもらいました(笑)。

 

 

中門から蹲踞に続く延段

 

中門から蹲踞に続く延段をつくっています。露地は徐々に山の奥に向かうような雰囲気につくりますが、これを上・下(かみ・しも)の格で言うと、入り口側が下で茶室が上になります。もっと細かくすると、「真・行・草」という言葉で表現されますが、延段もその格にならって、使う石や形が変わります。

 

 

敷き終わり

 

敷き終わりました。曲線を描くようにしたので、縁のラインが綺麗です。長さにして2,5m、こぶし大の石を70個ほど敷き詰めました。歩数にすると5歩で渡りきれます。小間の茶室は草庵とも呼ばれますが、茶室と接する内露地の伝いは、その「草」の格に合わせてもっとも侘びた雰囲気にします。

 

 

パターンの違う敷き方

 

今度は同じ石を使って、パターンの違う敷き方をしてみます。同じ「草」の格ですが、上の延段をもっと崩した敷き方で、「あられこぼし」と言います。今度は縁を揃えず、デコボコと出入りを付けながら、緩やかに曲げていきます。今回は、蹲踞の前の飛石も延段に組み込んでみました。大小の石を織り交ぜているので、上の敷き方とは少し雰囲気が変わります。使用した石は60個ほどです。一個付けて離れて見て、いろんな角度からバランスを見ます。納得いくまで、何度も何度も直します。

 

 

苔目地

 

苔目地にしてみました。目地が入ると一個一個の石が繋がって見えてきます。外側の石と石の肩が繋がるとラインが明確になり、全体の形がより引き立ちます。

 

 

もう一度作り直し

 

石と敷き方を変えてもう一度作り直しました。これも「あられこぼし」の一種です。茶室のタタキ部分と接近しているため、道と雨落ちの縁を兼ねた作りになっています。この道は亭主や半東が歩く道で客は歩きませんので、茶事の時は、関守石を置いて誘導します。

 

 

タタキ部分の石張り

 

タタキ部分の石張りをしています。本来なら、ここがにじり口になって沓脱石になるはずなのですが、残念ながら靴脱は置場の深い雪の中で冬眠中なので、ミカゲの短冊石で代用します。ゴロタはまだあるので、ここも延段にしてみました。また違う延段をつくることができて、若い衆も大喜びです(笑)。

 

 

タタキを地産の砂利で洗い出し

 

タタキを地産の砂利で洗い出しています。この砂利は、ここの延段や飛石に使っている川石を砕いたもので、これまではただの敷砂利として使っていました。今回初めて洗い出しの素材として試しましたが、この石が取れる川には5,6種類ほどの石があるので、けっこう面白い色が浮き出てきました。

 

 

外露地の腰掛待合の連客石を張る

 

場所を移って、今度は外露地の腰掛待合の連客石を張っています。このゴロタ石は京都の真黒石に似た地産の川石ですが、水打ちされた姿には惚れ惚れします。ミカゲ石の白にゴロタの黒。最高に贅沢な取り合わせです。

 

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腰掛待合の石敷きの様子

 

腰掛待合の石敷きの様子です。完成すれば何事も無かったようにすっきりしていますが、実際に張る石の3〜5倍の石を用意した中から厳選するので、これだけの石が散らかります。

 

 

石張りが完成

 

ようやく腰掛の石張りが完成。場所的な制約や在庫の事情もあり、飛石はやめてテラス式の石張りにしました。腰掛付近の伝いは、向付の所作の時に行ったり来たりする所ですので、足の運びを自由にして歩きやすくしました。ちょっと現代的な感じにしてみたので、露地ではない住宅の庭にも応用できるのではないかと思います。

 

 

露地口から腰掛待合を眺める

 

露地口から腰掛待合を眺めたところです。真・行・草の格に合わせ、伝いは方形の飛石から始まり、テラスの石張りへと入っていきます。歩きやすさを考えながらも、方形の形を活かしてリズミカルな雰囲気にしています。

 

 

2色の土でタタキ仕上げにし、デザイン的な園路にした

 

園路や土間の仕上げ方にはタタキという工法もあります。上の方形の飛石の周りを2色の土でタタキ仕上げにし、デザイン的な園路にしてみました。曲線を活かした柔らかなタタキとの絡みで、より方形の形が活きてきたように思いますが、現代的な庭などの園路に、やってみたい造作です。タタキと飛石の高さは同じくしてありますが、飛石周りの縁の部分を少し下げることで、石の形が明確になるようにしています。

 

 

別角度から

 

別角度からです。古典的な造作と現代的な造作が混在する空間になりましたが、それほど違和感は無いと思います。造形の存在感が強すぎると見ていて疲れてきます。それをカバーするのが植栽ですが、ここは室内なのでそれが制限されます。樹木の力は大きいです。作りが主張しすぎないように、地盤は土のままにしました。モミジが芽吹くのが楽しみです。

 

 

腰掛

 

せっかくなので腰掛もつくってみました。腰掛の背もたれは、敷地から出た土と砂にワラを混ぜ、塗りこんだ土壁です。ここは昔、田んぼを山砂で埋め立てた所なので、深く掘ると土が出てくるのです。お金を掛けずに庭をつくれるなんて、なんと嬉しいことでしょう(笑)。

 

 

簡易の腰掛

 

腰掛の石敷きテラスを扇子状にしたので、客が多い時は簡易の腰掛を置いて対処できます。露地の距離を十分に取れない場合などは、この簡易の腰掛部分を寄付にしてもいいかもしれません。

 

 

版築の袖垣をつくる

 

腰掛の仕切りとして、版築の袖垣をつくることにしました。枠を組んで土を突きこんでいます。外枠の板に層のラインを描いてますが、枠を外してみるまで、どんな模様や色具合になっているのかわかりません。袖垣の柱は枕木ですが、当初はつくる予定が無かったので、雪の中から引き釣り出してきました。外は一面の銀世界。どこにあるのか全く見当が付かない中、見事若い衆が掘り当て、雪上をソリのように滑らせて運んできました(笑)。

 

 

ミカゲ石と大理石を組み合わせた手水鉢

 

袖垣の前には、ミカゲ石と大理石を組み合わせた手水鉢を配置。石張りのテラスや版築塀との組み合わせを試してみました。ちなみに、このような趣向は、作意を見せない草庵の茶事には不釣合いで、茶事にはまったく必要のないものです。

 

 

灯り

 

実はこの水鉢には仕掛けがしてあって、夜になると、このミカゲ石の柱の間から青白い灯りがこぼれます。ミカゲのデコボコした割肌具合が面白くて、わざとそんな面を表に出しました。庭にちょっとした驚きがあると楽しくなりますね。現代的な中庭などに使ったら面白いかもしれません。

 

 

土壁

 

だんだん庭の造作が出来てくると背景が気になってきます。何かで仕切りたいのですが材料は無し。さてどうする? そうだ、穴を掘れば土はまだ出てくる!ということで、ここも土壁にしてみました。土塀の基礎は男鹿石の腰積です。やっぱり、背景がしっかりしていると庭が引き締まります。直線的な腰積みのおかげで、手前のあられこぼしが活きてきました。

 

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土仕事はタイミングが勝負

 

土仕事はタイミングが勝負。3月とはいえ、外はまだ吹雪くこともあります。気温が5度以上に上がる日を選び、2回塗りで仕上げました。乾き具合を見て表面を掻き落としましたが、中から藁スサが顔を出すと、その素朴な風情に顔も緩みます。北国の土仕事で一番怖いのは凍結。まだまだ零下に下がる日もあるので、あえて今の時期につくって寒さに当ててみました。

 

 

腰掛から見た景

 

腰掛から見た景です。蹲踞での亭主の所作があからさまに見えないように、ヤマモミジの寄せ植えでやんわりと隠すようにしました。木は少し盛土して植えていますが、地層のように見えるのは、田んぼの土と山の赤い粘土を突き固めた版築です。山を歩いていると表土が崩れて地層が出てきている景色を見かけますが、地元の土で、そんな素朴な風情を表現したいと思いました。

 

 

迎付をする中門

 

ここは迎付をする中門となる部分です。通常は枝折戸などが付き、その両側には四つ目垣等の仕切りが付くのですが、敷地の都合もあって、ここでは省略しています。代わりに、モミジと地層の景色で内露地と外露地を穏やかに仕切ります。

 

 

内露地の草の延段と蹲踞

 

内露地の草の延段と蹲踞。前の客が蹲踞を使っている時に、この延段で次の客が待ちます。立ち止まったり歩いたりする所は歩行の自由が利く延段のほうが親切です。露地の伝いは客への気遣いが形になったもの。単なるデザインでここに延段があるわけではなく、ちゃんと意味があるんですね。露地の伝いは実際の使い勝手を考えてつくられているということがわかります。

 

 

ゴロタ石を入れ、竹の筧を取り付け

 

海にゴロタ石を入れ、竹の筧を取り付けました。筧は本来、茶事には必要のないものですが、風情として水音を楽しみたい時や、客が大勢で水を補給しなければならない時、石質や年代により水鉢が水漏れする場合などには取り付けます。水は高い所から流れてくるというのが自然ですので、蹲踞は上の方に組み、筧も上の方に取り付けます。

 

 

軒内の様子

 

軒内の様子です。水打ちされた飛石と延段がきれいです。周囲を砂利で洗い出したので、さらに引き立って見えます。色合い、質感、強度とも良好なので、今後現場で使う機会も増えるでしょう。

 

 

お披露目

 

とりあえず完成したので、庭の会のメンバーにお披露目しました。客観的な意見や感想が一番の勉強になります。

 

 

 

あとがき

福岡造園の庭園研究室の様子、いかがでしたでしょうか。
今回は庭づくりの基礎を学ぶために露地の作りを教材として練習しましたが、腰掛のテラスや版築、土塀、灯りのこぼれる水鉢、洗い出しなど、今後の庭づくりに取り入れていきたいと思う、新たな造作も試みました。
まだ完全に完成したわけではありませんので、また暇を見て手を加えていきたいと思います。

研究室は野外にもあります。コチラをご覧下さい。

※ご希望の方には公開しております。事前にご連絡下されば、ご案内いたします。ご同業の方も大歓迎です。楽しく庭の話が出来たら嬉しいです。研究用の庭なので、内容が変わっている場合もあります。ご了承下さい。

 

 

中鉢蹲踞の露地

 

露地の補修

 

→作庭集

 

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