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「緑の景観を考える」能代市長との直接対談

 

能代市長との直接対話

 

4月18日、庭の会のメンバーで能代市長齋藤滋宣さんと「街並の緑のあり方を考える」というテーマで対談してきました。

 

美しい姿のイチョウの街路樹

「残したい場所」新聞記事

写真の街路樹は今冬市内で見つけたイチョウと、その時のことを書いた新聞記事です。
イチョウがイチョウらしく伸び伸びと枝を伸ばす姿と、そこで当たり前のように落葉の掃除をしていたご婦人の姿に感動して、地元紙に寄稿しました。
このような、人の暮らしと木と街が共生している風景を残している能代市を誇りに思ったものですが、翌月、残念ながらこのイチョウ並木は無残にもブツ切りにされてしまいました。
記事についての良い反響もありましたので、市にもその声が届くことを祈っていたのですが、やはり、今年も例年のように事務的に、伐採のような剪定が行われました。
この、殺伐とした光景を目の当たりにし、その足で担当課に話を聞きに行ったところ、返ってきた返事は、「市の街路樹は剪定ではなく『枝打ち』だ。」というもの、これは以前に議員さんを通して聞いた時と同じ答えでしたが、直接この言葉を聞いて、なんとも情けないやりきれない気持ちになりました。
新生能代市のスローガンは「水と緑の環境の街」。
街路樹を「枝打ち」することが「緑の環境の街」を作ることなのだろうか、街路樹を木らしい姿で街に存在させてあげることは無理なことなのだろうか、市は「緑」という言葉をどのように捉えているのだろうか、この街の役人も業者も、このぶった切り剪定に何の疑問も持たないのだろうか、これは市のトップである市長さんの考えを直接聞いてみなければどうしょうもないと思いました。

 

 

 

今冬剪定された能代市街のイチョウ

今冬剪定された能代市街のイチョウ

同じく今冬剪定された能代市二ツ井町のイチョウ

同じく今冬剪定された
能代市二ツ井町のイチョウ

 

市長さんと話をしたいと言っても、多忙な市のトップとはそう簡単に会えるものではなく、さてどうしたものかと市の窓口に相談しました。新しい市長さんは偉いです(笑)。市には、市長の発案で開設された、市民と市長とが直接対話できるランチミーティングという企画がありました。市には『市長へのメール』というのもありますが、以前に利用した時は担当課の所で話が止まっていましたので、今回は遠慮、直接話をするほうを選びました。
しかし、この企画は団体が対象のものなので、私一人で会うことはできません。
そこで頭に浮かんだのが、以前、『庭』誌140号(下関特集)で見た市長と作庭者の方々が「まちづくり」をテーマに語った座談会です。 植木屋はただ庭ばかり作っていればいいというものではなく、責任ある立場になれば、一社会人としての地域貢献、まちづくりへの参画も必要となります。
庭の会の理念は、自分を育ててくれる庭、人、街、自然への『恩返し』です。
これまで街路樹のことは私個人で活動していたものですが、次代を担う若い造園人を育てることなくして故郷の庭や街並の緑に未来はないと思い、メンバーの志を育てるためにも、今回「庭の会」の活動の一環として、是非この対談を実現したいと思いました。

 

庭の会メンバー

庭の会メンバー

 

開催は平日の日中です。絶好の仕事日和の中、自分の親方に頼み込んで休みをもらってきたメンバーの熱意には本当に頭が下がりました。
開始15分前に担当者の方と進行の打ち合わせ。「ご飯の時間が長くなると対談時間が少なくなる。」との説明を受けるや、「飯は3分で食べるのでご心配なく。」と返す私に続き、間髪入れず「僕は2分で食べます!!」と言うメンバー。頼もしいぞ、みんな! その調子で気合入れていくぞ!!(笑)。この若きパワー、熱意こそが、行政を突き動かし、街の緑を変える原動力になるのだと思います。
皆今日は現場から駆けつけてくれたので、当然仕事着です。職人が着慣れないスーツなんか着たら途端に弱腰になってしまう。足袋に手甲が植木屋の正装、この出で立ちなら誰にも負けません。
よーし!気持ち良く緊張してきたぞ。 この勢いでさっさと弁当を食べよう!ということで、会議室に乗り込みました(笑)。

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ランチミーティング風景・1

ランチミーティング風景・2

部屋では既に、関係課の課長さんたちが待っていました。顔見知りの方、新しく移動された方、いろいろです。「皆さん、ご苦労さん!」と市長さんが入って来ると、起立して出迎える課長さんたち。後で若いメンバーに感想を聞いたところ「あー、市長さんって、やっぱり偉いんだ!」とのこと(笑)。
この件で役所と話すのは何度も経験済みですが、改めて会議室での会談となると、また雰囲気が違うものです。目の前に偉い人たちが勢ぞろいすると、さすがに緊張します。 外仕事の職人は堅苦しい部屋の中が苦手です。武器(鋏やスコップ)を持たない植木屋が、百戦錬磨のお役人さんたちを相手に、無口な口で戦いを挑もうとするのですから心細くて仕方ありません(笑)。
直接現状を見なければ、木を見て話さなければ何も伝わらないと思いましたので、出来れば現場で説明したいとお願いしましたが、時間的な都合や、この企画は「ランチで対話」だけに、とにかく一緒に弁当を食べることが優先されるので(笑)、これは通りませんでした。
写真右は、庭の会の事業報告まで読んでいてくれた市長さんが、中野君に『居酒屋なかの』の話を振ったところです。さすが市長さん、これでみんなの緊張が一気にほぐれました(笑)。
ランチは話し上手な市長さんと終始和やかムードで進みましたが、この雰囲気での食事は、なんだかいつもの昼飯より喉の通りが悪く、食べ終わるのに3分も掛かかってしまいました(笑)。

 

ランチミーティング風景・3

ランチミーティング風景・4

 

ランチ後、いよいよ質疑に入ります。
市長さんには、この会談のために事前資料と質問状をお渡していました。質問は10問でしたから60分10本勝負。 真面目な話し合いですから真剣勝負です。
対談は、一括質問の後に市長さんがまとめて答えるというもので、会を代表して私が質問しました。反応の無い話は疲れます(笑)。セリフを棒読みするように、一人でただ質問を読むと言うのは味気なくて、なかなか辛いものがありました。

 

ランチミーティング風景・5

ランチミーティング風景・6

初めは紙を見ながらぎこちなく話していましたが、乗り出すともう止まりません(笑)。
身振り手振りを加え、写真や資料を見せる。アチラヘコチラへ、先へ後へと話が飛ぶ。自分で自分の話をまとめるのに苦労しました(笑)。

ランチミーティング風景・7

そして市長さんの答弁です。 この市長さんは元国会議員。演説の上手さ、人の心を掴むスピーチには定評があります。
正論をストレートに話すだけの私に対して、まずこれまでの役所の対応と知識不足を素直に詫び、誠意を示してくれました。
質問に対しては、無駄な植栽支柱は即刻対処、醜いブツ切り剪定は再考、こちらが提案した、業者の奉仕による街路樹剪定のモデル地区を作ることにも快く賛成してくれましたので、一歩も二歩も前進です。

 

ランチミーティング風景・8

質疑の後は自由討論。一方的な質疑は対話にはならないのと、質問に対する答えが真を付かないところもありますので、これからが本番です。
関係課の課長さんも交えながら、かなり突っ込んだ話もしていきます。

 

 

強剪定後、枝が暴れた街路樹

「街路樹に木と街に合わせた剪定は出来ないのか。二ツ井地区でやれたことがなぜ能代市内でできないのか?』という私の問いに対しては、『実質、市の街路樹は3000本を超え、財政事情の悪い中、一本の木に掛けられる予算は限られてくる。電線、落葉、車や人の通行、人との暮らしの兼ね合いもある。」

それに対しては、「刈り込みのような木を透かしに直すには手間が3倍掛かるが、始めから透かしをしていればそんなに手間は掛からない。ブツ切りするから木の生理が狂い、次にやるときに手間が掛かる。下手に手を入れた木が、二年後、切る前より大きくなっているのを見ていますか。前より葉が増えているのをご存知ですか。300本発注するところを100本にすることはできませんか。(今回は322本発注)。小さな木まで一様にブツ切りにする必要はない。電線に当たるところだけをやればいい木もある。木との共生を楽しんでいる市民もいる。苦情があるなら住宅地を重点的に、住宅のない郊外は後回しにすればいい。公園周りなどは公園樹と一体感を持たせるために、剪定は最小限でもいいのではないか。下手に手を入れなければ木はそんなに伸びないから、木は枝を伸ばすのを待ってくれる。やらなくてもいい木、ちょっとやればいい木、ちゃんとやらなければならない木を分ければ予算調整できるはずだ。木は一本一本がみな違う。全ての木を同じく同じ予算でやる必要はない。もっと木と現場を見たほうが良い。」でした。

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号の隣に最近植えられた街路樹

信号の隣に最近植えられた街路樹

信号の隣でブツ切りされた街路樹

信号の隣でブツ切りされた街路樹

 

話が盛り上がると、だんだん本質に近づいていきます。
『課には様々な業務がある。職員は街路樹のことばかりにかかっていられないのも現状だ。』という市長に対し、「それはわかる。わかるが、もっとまちづくりの根本、植栽計画からきちんと考えなければダメだ。』という私に、さすがの市長さんもちょっと語気を強め、「でも木は既にあるのだから、なんともしようがないではないか!」
続ける市長さんをさえぎって、『そんなことを言ってるのではない。(上の写真を見せながら)、なぜ、いずれ邪魔になるとわかっている信号の横に木を植えなければならないのだということを言っている。街路樹は道路の付属物だから、後から信号が出来るのは仕方ない。でも既に信号ができている横に植える必要はあるのか。信号とセットで計画する必要はあるのかということを言っているのだ。ここは市役所のすぐ裏だ。なぜ他町の私が気付いて、すぐ近くにいるあなた方が気づかないのだ。計画段階で本気で考えなければ駄目だと言っているのだ。無駄な所に予算を使うのは、それこそ税金の無駄遣い。いずれ邪魔になる木をここに植えなくても、その予算を管理に回せばいいのではないか!』

緊張も解け、私もかなりエキサイトしてきました(笑)。こんな白熱した応酬もあった討論ですが、時間切れ。まだまだ話したりないですが、タイムアップになりました。

 

 

二ツ井小学校前のプラタナス(剪定前)

二ツ井小学校前のプラタナス(剪定前)

二ツ井小学校前のプラタナス(剪定?後)

同 (剪定?後)

最後に市長さんが、メンバーの一人一人に意見を聞きます。
和長君から、対談でも話の出た、上の写真のプラタナスについて「ここは小学校の前。こんな切り方は子供の教育にも良くないのではないか。』という貴重な意見も出ました。もっともです。
人数合わせで参加させられた妻も意見を求められました(笑)。いきなりの指名に「さきほど主人が言ったとおりです。」。
前夜、妻からは「私は何を言えばいいの?」と聞かれていたのですが、「正直に、『市長さん、家では、毎日毎日街路樹の話ばかりでウンザリです。早く市内の街路樹をなんとかしてくれないと家庭崩壊です!』と言えばいいよ。」と答えた私でした。 「なんだ、昨夜の勢いはどうした!」と、心の中で叫んだ私です(笑)。

 

 


 

あとがき

 

1時間のランチタイムも無事終了。とにもかくにも、市のトップに直訴することができました。ここまで辿り着くのに2年掛かったので、感慨無量のものがあります。若いメンバーも、いい経験が出来たのではないかと思います。
短い時間でしたが、かなり集中したので疲れました。夢中で話したので写真を撮られていたことにも気づかなかった私です。
待ってるだけでは街は良くなりません。おかしいと気付いたら、こちらから動いて事を作っていくことも大切です。自分たちの技術が故郷の役に立つなら、どんどん使うべきだと思います。
今回は本当に、前向きないい話し合いが出来ました。ぜひ、今日の提案を、話だけで終わらせずに、今後の施策に活かしていただけたらと思います。
たった1時間の会議でしたが、前後の移動や現場の段取りを考えると、今日は仕事になりませんでした。この日のために資料を作成したり、写真を撮りに行ったり、街を調査したり、この日のためにつぎ込んだ時間はプライスレスです(笑)。
金にならないことをなぜやるのか、それはやはり、植木屋の誇りと良心、故郷を誇りに思う気持ち以外の何ものでもありません。
最後になりますが、メンバー始め、市長さん、関係課の皆さん、準備設営していただいた担当の皆さん、本当にありがとうございました。

追記
庭は礼に始まり礼に終わる。市長さん、関係課の皆さんには、後日お礼状を送り、その後の会の活動なども併せて報告しました。

 

 

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